Synthetic Media(シンセティック・メディア)が新聞やスマホに次ぐ三世代のメディアとなる。 Synthetic Mediaとは、AIで生成された動画や音声を指し、誰でも簡単にプロ並みのコンテンツを生成できることに特徴がある。 いま、人間と見分けのつかないデジタル・ヒューマンが生まれている。この技術を使うとアインシュタインをデジタルに生成し、エンターテイメントやプロモショーンに応用できる。 デジタル・アインシュタインこの技術を開発したのはUneeq(ユニークと発音)という新興企業で、本物と見分けのつかないアインシュタインのアバターを制作した(上の写真)。 これは「Digital Einstein(デジタル・アインシュタイン)」と呼ばれ、語り掛けるとアバターがこれに答える。 生い立ちを紹介するだけでなく、難しい質問にも回答する。「原爆を作ったのか」と尋ねると、デジタル・アインシュタインは、「マンハッタン計画には参加していない」と説明する。 アインシュタインの声デジタル・アインシュタインの声もAIで生成された。ここでは、Aflorithmicという新興企業の技術が使われた。 ビデオなどに録画されているアインシュタインの肉声をベースに英語の音声が生成された。ただし、アインシュタインはドイツ生まれで、ドイツ語が母国語で、英語を話すときにはドイツ訛りとなる。 そのため、デジタル・アインシュタインは分かりやすい英語を話すよう加工されている。 目的はプロモーションデジタル・アインシュタインを生成する理由は製品やサービスのプロモーションにある。 現在は、チャットボットと会話しながら買い物をする「Conversational Commerce」が主流である。 例えば、Facebook Messengerで花屋さんのチャットボットと対話しながら希望のフラワーアレンジメントを見つけ購入する。今年は、これをもう一歩進め、感情豊かなデジタル・ヒューマンと対話して買い物を実行する「Conversational Social Commerce」の開発が進んでいる。 Conversational Social Commerceとは消費者は対話する相手と感情的につながる(Emotional Connection)と、購買が成立する確率(Conversion Rate)が大きく向上するとの調査報告がある。 つまり、相手に共感し好意をもつことで購買意思決定が促進され、この手法をConversational Social Commerceと呼ぶ。 このため、感情を豊かに表現できるアバターが必須で、表情を変えながら消費者と対話するシステムの開発が進んでいる。従来は、専任のフェイスモデル(Face Model)やボイスアクター(Voice Actor)を雇い、撮影や編集を通じてデジタル・ヒューマンを制作していたが、AIでリアルなアバターを制作できるようになり、開発コストが大幅に下落した。 デジタル・ヒューマンを使ったビジネスデジタル・ヒューマンの適用領域は広く、BMWはクルマのナビゲーションをUneeqの技術を使って開発している。 従来のように音声ガイダンスだけでなく、デジタル・ヒューマンが表情を交えて行き先を案内する(上の写真)。 また、保険会社Southern Cross Health Societyはデジタル・ヒューマン「Aimee」が顧客の質問に応対する(最後の写真)。 Aimeeは表情豊かに会話し、リアルの人間と区別がつかない。また、スマホアプリでデジタル・ヒューマンがサンフランシスコの観光案内をする(下の写真)。 著名人のデジタルツインUneeqは著名人のデジタルツインの制作で使われている。デジタルツインとは実社会のオブジェクトのデジタルコピーを制作する技術で、このケースでは著名人やセレブのデジタル・ヒューマンを指す。 ニュージーランドの元ラグビー選手Sir John Kirwanは同氏のデジタルツイン「Digital John Kirwan(DJK)」を制作し、メンタルヘルスの治療で活躍している(下の写真)。 デジタルツインはスマホアプリ「Mentemia」で稼働し、DJKが患者と対話しながら、不眠症の治療方法を解説する。 デジタル・ヒューマン制作方法Uneeqはデジタル・ヒューマンを生成するためのクラウドサービスを提供している。 企業はブランドイメージに沿ったアバターを選び(下の写真、最上段)、それに会話ルールを設定するだけで、人間そっくりのAIアシスタントを生成できる。 また、感情を挿入するオプションがあり、デジタル・ヒューマンは設定された表情と音声で対話する。 完成したデジタル・ヒューマンは企業のウェブサイトやスマホアプリで稼働する(下の写真、下段)。 Deepfakeと倫理問題一方、デジタル・ヒューマンの制作は倫理的に難しい問題を含んでいる。 デジタル・ヒューマンはAIや機械学習の手法で生成されるが、本物と見分けのつかない精巧な偽物が出来上がる。 これはDeepfakeと呼ばれ、本人になりすまし消費者を欺き、偽情報を拡散するなど危険な技術でもある。 このため、EUはAI利用規約のプロポーザルを策定し、デジタル・ヒューマンの運用は透明性が必要としている。 つまり、チャットボットやアバターを使う際は、人間ではなくAIであることを明示することを義務付けている。 Synthetic Mediaの進展人間そっくりのアバターが顧客と対話する技術は既にビジネスで使われている。
IBMはデジタル・ヒューマンで銀行のコールセンター業務を代行するモデルを開発した。 しかし、このシステムは高度な技術と多大な費用を要し、デジタル・ヒューマンを事業で展開できる企業は限られていた。 AIの進化と共にSynthetic Mediaの開発が進み、誰でも簡単に高精度なデジタル・ヒューマンを生成できるようになった。 今年はデジタル・ヒューマンがウェブサイトやモバイルアプリで活躍する年になる。 特に、アインシュタインなど著名人が製品をプロモーションする利用法が増えると予想されている。 欧州連合(European Union)は、AIの運用を規定したプロポーザルを発表した。 AIは社会に多大な恩恵をもたらすが、その危険性も重大で、EUは世界に先駆けてAIの運用規制に踏み出す。 警察は顔認識技術を使って市民を監視することが禁止される。 また、銀行はAIによる与信審査を導入する際は厳格な運用条件が課される。 一方、米国は連邦取引委員会(Federal Trade Commission)がAIの利用規制に関する意見書を公開した。 欧州と米国はAIの運用を厳しく制限する方向に進み、各国の企業は対応を迫られることになる。 EUのプロポーザル欧州委員会(European Commission)は2021年4月21日、AI運用に関するプロポーザル「Proposal for a Regulation on a European approach for Artificial Intelligence」を公表した。 AIが社会に浸透し人々の生活にかかわる中、欧州委員会はAIの運用ルールを定め、危険なAIについては使うことを禁止する。プロポーザルはAI運用の指針を示したもので、EU加盟各国はこれをベースに法令を制定してAIの運用を規制する。 AI利用規定の内容欧州委員会はAIの危険度を四段階に分けて定義し、それぞれの利用法を規定している。 危険 (Unacceptable risk)なAIはその使用を禁止する。 ハイリスク(High-risk)なAIについては、規定された対策を適用することを条件に使用が認められる。 ローリスク(Limited risk)なAIは、表示義務を条件に使用が認められる。 その他(Minimal risk)のAIは無条件で利用できる。また、これらの規定に従わないときは罰則規定が設けられ、制裁金(最大3000万ユーロか売上高の6%)が課される。 欧州委員会のプロポーザルの特徴は、ハイリスクなAIを定義し、その運用条件を定めたことにある。 AIの危険度とその事例危険なAIとは監視カメラで市民の行動をモニターし、その挙動を解析し信用度を付加するAIとしている。 これは中国で実際に運用されているが、欧州委員会はこれを全面的に禁止する。 ハイリスクなAIは、人間に代わり試験を採点するAIや、人事採用で履歴書を評価するAIなどが含まれる。 また、銀行でローン審査を担うAIや、裁判所で証拠を検証し判決を下すAIが対象となる。 更に、警察の犯罪捜査で使われる顔認識AIが含まれる。欧州委員会が示したAIの危険度とその事例は下記のテーブルの通り: ハイリスクなAIを利用する条件ハイリスクなAIを使う際はその運用に厳しい条件が課される。 AIのアルゴリズムが偏ってなく、人種や性別や年齢にかかわらず公正な判定を下すことが求められる。 また、AIのアルゴリズムのメカニズムを詳細に説明したドキュメントの制作が求められる。 消費者がAIの機能や品質や使用方法を理解し、正しく利用できる説明書を求めている。 ハイリスクなAIを運用する条件は下記の通り:
ローリスクなAIローリスクなAIは対話型のチャットボットで、人間ではなくAIが応答していることを明示することを義務付ける。 その他のAIは無条件で利用でき、スパムフィルターなどがこれに該当し、特別な条件なしでAIを運用できる。 次のステップ欧州委員会がプロポーザルを作成した背景には、EUはヒューマンセントリックスなAIを開発し、AI技術で世界をリードするとの狙いがある。 これらは欧州委員会の提案書であり、加盟各国はこれをベースに独自の法令を制定するプロセスとなる。 2018年にEU一般データ保護規則(General Data Protection Regulation; GDPR)が導入され、加盟各国はこれをベースに独自の法令を定めたように、AIも同じプロセスをたどることになる。 米国におけるAI規制の状況米国は連邦政府レベルでAIの利用を規制する法令は無く、州や市が独自の法令を定め運用している。 特に、顔認識技術の危険性が指摘され、警察がこれを犯罪捜査で使用することを禁止する法令が制定されている。 サンフランシスコやボストンなどは、警察が顔認識技術を使うことを禁止する法令を制定した。一方、殆どの自治体はこれを禁止する法令は無く、顔認識技術が幅広く使われている。 米国はFTCが見解を発表米国においても連邦政府レベルでAIの運用を規制するルールの制定が始まる。 FTCは消費者を不公正な商取引から保護することをミッションとするが、AI運用に関するコメントを発表し、企業にAIを公正に活用することを促した。 FTCは既に、AIとアルゴリズム利用に関するガイドラインを発表しているが、今回のコメントはそれを一歩進め、AIの不公正な利用を法令で取り締まることを示唆した内容となった。 AIを管轄する法令これによると、FTCは不正な商取引を禁止しており(FTC Act)、人種差別につながるアルゴリズムの販売は禁止される。 また、人事面接でアルゴリズムが応募者を不採用にする行為は消費者を公正に格付けする法令(Fair Credit Reporting Act)に抵触する。 更に、アルゴリズムが不正に特定の人種や性別や国籍によりローンを認めないケースでは、公平な権利を規定した法令(Equal Credit Opportunity Act.)に抵触する。 FTCはAI規制を強化するGDPRが示すように、EUはハイテク企業に対し、プライバシー保護や個人の権利に関し厳格な対応を求める。 一方、FTCは米国企業が中心のハイテク企業に対しては、ビジネスを優先し寛大なポジションを取ってきた。 しかし、AIに関してはこの流れが変わり、FTCもハイテク企業に対し、EUと同じレベルの規制を導入するとの見方が広がっている。 AI企業は対応を求められる米国で危険なAIがルール無しに運用され社会に混乱が広がっている。
高度な顔認識技術を提供するClearviewは、Facebookから顔写真をスクレイピングし消費者の間で懸念が広がっている。 FTCがAI運用に関する統一したルールを制定することで、消費者の権利が守られ、安心してAIを利用できると期待される。 一方、AI企業は制定される法令に沿った品質保証が求められ、AI開発は大きな局面を迎える。 NVIDIAは2021年4月、開発者会議「GPU Technology Conference (GTC)」で、プロセッサとAIの最新技術を公開した。CEOのJensen Huangは基調講演で自動運転車向けのプロセッサと開発環境を解説。 Googleなどは独自技術で自動運転車を開発するが、NVIDIAはプロセッサやリファレンスモデルを提供し、一般企業がこれを使い短期間で自動運転車を開発する。パソコンがIntel x86で組み立てられるように、自動運転車はNVIDIAの標準プロセッサで開発される。 NVIDIAの自動運転技術NVIDIAは世界最高速の車載AIプロセッサ「Atlan」を発表した。 また、自動運転車のリファレンスモデル「Hyperion」を公開し、企業はこのテンプレートを使って自動運転車を開発する。 更に、高精度のシミュレータ「Drive Sim」を発表した。これはデジタルツインを生成する技術「Omniverse」で構成され、現実社会に忠実な仮想社会が生成され、ここで自動運転車の試験や検証を実行する。 AIプロセッサ:AtlanNVIDIAは、自動運転車向けの車載AIプロセッサを開発してきたが、その第四世代となる「Atlan」を発表した(下の写真)。 Atlanは世界最高速の車載AIプロセッサで、NVIDIAはこれを「クルマに搭載されたデータセンター」と呼んでいる。Atlanは3つのモジュールで構成され、AI演算を司るGPU「Ampere」、汎用プロセッサCPU「Grace」、データ処理プロセッサDPU「BlueField」から成る。 Graceとは、NVIDIAが開発したCPUで、ARMベースのアーキテクチャとなる。また、BlueFieldは、セキュリティ機構や通信処理機能を備えた専用プロセッサで、車載プロセッサに組み込むのは今回が初となる。 AIアルゴリズムを高速で処理Atlanは自動運転AIを実行するプロセッサで、クルマに搭載されたカメラやLidarのデータを解析し、進行経路を算出する。 また、Atlanはクルマと運転者のインターフェイスとなるAIを実行する。 クルマは搭乗者と音声で会話し、また、運転者の身体状況をモニターする。Atlanの性能は1,000 TOPS(毎秒1,000兆回の演算)能力を持ち、現行モデル「Orin」の4倍の性能となる。Orinは2022年から生産が開始され、Atlanは2023年からサンプリングが始まり、2025年のモデルに搭載される。 VOLVOはOrinで自動運転車開発GTCでVolvoはNVIDIAと自動運転車の共同開発を進め、Orinを搭載した自動運転車を2022年に出荷することを明らかにした。 Volvoの高級SUV「XC90」にOrinが搭載され、レベル4の自動運転車となる(下の写真)。 Volvoの次世代車両は自動運転に対応したアーキテクチャとなり、必要なハードウェアを実装し、ソフトウェアのアップデートで自動運転車となる。 また、クルマは位置情報と気象情報を把握し、自動運転できる条件を自動で判断する。自動運転技術は Volvoの子会社 Zenseactで開発され、Volvoはインテリジェントなモビリティ企業に変身している。 自動運転リファレンスモデル:HyperionNVIDIAは自動運転車のリファレンスモデル「Hyperion」の最新版を発表した(下の写真)。 これは自動運転車の開発キットで、ハードウェアとソフトウェアで構成される。企業や大学はこのモデルを使って短時間で自動運転車を開発できる。ハードウェアは、プロセッサとしてOrin(2セット)、センサーはカメラ(外部搭載が12台で車内搭載が3台)、レーダー(9台)、Lidar(2台)で構成される。 ソフトウェアは評価ツールで、NVIDIAの自動運転ソフトウェアを使って開発したシステムをここで検証する。 自動運転ソフトウェアNVIDIAは自動運転ソフトウェアをオープンソースとして公開しており、これを利用して自動運転車を開発する。 これは「Drive Software」と呼ばれ、基本ソフトウェア「Drive OS」、開発環境「DriveWorks」、自動運転機能「Drive AV」、運転者監視機能「Drive IX」から構成される。 これらのソフトウェアを Hyperionと組み合わせレベル4の自動運転車を短期間で開発できる。 実際に、バージニア工科大学は Hyperionで自動運転車を開発し、自動運転技術の研究で活用している。 自動運転シミュレータ:Drive SimNVIDIAは自動運転車ソフトウェアを開発するシミュレータを発表した。 これは「Drive Sim」と呼ばれ、実社会を忠実に再現した高精度なシミュレータとなっている。 シミュレータで自動運転AIのコア技術であるコンピュータビジョンのアルゴリズムを教育する。 また、完成した自動運転ソフトウェアを試験する環境として使う。(下の写真、シミュレータが描写するシーンであるが、現実社会と見分けがつかないだけでなく、物理現象が正確に再現されている。) デジタルツイン開発技術:Omniverseシミュレータはデジタルツインを生成する技術基盤「Omniverse」をベースに開発された。 シミュレータはクルマに搭載されたセンサーが収集するデータを忠実に再現することが求められる。 また、クルマは異なる環境で走行し、外部の光の状態を正確に描き出すことが必須要件となる。 従来はゲームエンジンで生成されていたが、上記の要件を満たすためOmniverseが開発された。 これにより、シミュレータは物理現象を正確に反映し、アルゴリズムの教育や検証で効果をあげることが期待される。 自動運転プロセッサの国際標準NVIDIAの自動運転プロセッサはVolvoの他に、GM CruiseやAmazon Zooxなど先進企業が採用している。
また、NVIDIAは Mercedes-Benzとソフトウェアで定義されたクルマ「Software-Defined-Vehicles」を開発している。Mercedes-BenzにOrinを搭載し、レベル4の自動運転車として製品化する(最初の写真)。 多くの自動運転車ベンダーがOrinの採用を始め、Nvidiaはクルマの国際標準プロセッサとなる勢いをみせている。 米国でワクチン接種が進み、多くの企業がオフィスを再開し、社員が職場に戻りつつある。 Microsoftはリモートワークの実態を調査し、コロナ終息後の勤務形態について提言した。これによると、企業も社員もハイブリッド勤務を望んでおり、これが標準勤務形態となるとの見通しを示した。 同時に、会社幹部と社員の間でリモートワークに関する認識のギャップが大きく、これがハイブリッド勤務の最大の課題になると警告した。 リモートワーク評価レポートMicrosoftは2021年3月、勤務実態の動向を分析した報告書「The Next Great Disruption Is Hybrid Work – Are We Ready?」を公開した。 コロナの感染拡大で企業がリモートワークに移行したが、3万人を対象に、コラボレーションツール(Microsoft 365やLinkedIn)のデータを元に、遠隔勤務の実態について分析した。更に、コロナ終息後の勤務体形について提言を行った。 報告書の要旨このレポートによると、オフィスが再開されると勤務形態はハイブリッドになり、これが標準形態として定着する。 ハイブリッド勤務になると、社員は勤務時間が柔軟になり、居住地の制約がなくなる。 その一方で、社員やチームが孤立し、仕事における人的ネットワークを構築することが難しくなる。 特に、若い社員はリモートワークに上手く対応できてなく、今年は転職者の数が激増するとしている。会社はこの環境の変化に迅速に対処する必要があり、人事管理の手法が劇的に変わる。 会社も社員もハイブリッド勤務を好む調査した社員の73%がハイブリッド勤務を希望しており、また、企業の66%がこの形態に移行すると答えている。 社員も企業もハイブリッドを好み、コロナ終息後はこの方式が定着すると予想する。 ハイブリッド勤務となると、企業はオフィス環境を整備する必要があると考える。従来のオフィスは仕事の効率を追求した構造となっているが、これからは社員が快適に過ごせるスペースとしてデザインする必要がある。 管理職は社員の苦労を理解していない社員は1年近くリモートワークを続け、仕事の重圧や孤立感を感じている。 また、遠隔勤務に必要なネットワーク環境が整っていない社員も少なくない。 更に、社員の多くが、仕事が順調に進んでいないとプレッシャーを感じている(下のグラフ)。 特に、独身社員の67%が、また新入社員の64%が、仕事が順調ではないと答え、若い世代でこの傾向が顕著に表れている。 これに対し、幹部社員の61%は、リモートワークはうまくいき、仕事の効率があがっていると評価している。 また、多くの幹部社員は在宅勤務の社員は会社に多くを求めすぎると思っている。幹部社員は在宅勤務社員の困窮の状況を正しく認識していない実態が明らかになった。 仕事の効率が上がっているのは社員の残業による幹部社員はリモートワークで仕事の効率が上がっていると評価するが、これは社員の”残業”によるものであるとの実態が明らかになった。 多くの社員はリモートワークで生産性が同じか、または、向上したと答えている。同時に、出社勤務に比べて仕事時間が増えたと答えている。 これを裏付けるデータとして、Microsoftはコラボレーションツールのデータ量を公開した(下のグラフ)。 これによると、都市のロックダウンで仕事が在宅勤務になると、出社勤務に比べ、会議の時間が148%増加し(グラフ上段)、チャット件数が45%増加した(グラフ下段)。リモートワークで仕事の量が増えていることがデータで示された。 このため、社員の54%が過労であると感じており、生産性が上がった理由は社員の仕事時間の増加によることが明らかとなった。 人のネットワークがしぼむリモートワークのもう一つの問題点は、社員やグループが孤立し、人的ネットワークが縮小したことにある(下のグラフ、社員同士のつながりの強さを示したもの)。 遠隔勤務ではコラボレーションツールを使って仕事をするが、同じ部門内ではコミュニケーションの量が増え、メンバー同士のつながりが強くなった(緑色のグラフ)。しかし、部門を超えたコミュニケーションは低下し、人のネットワークが縮小した(青色のグラフ)。 これにより、部門間の協調性が低下し、生産性やイノベーションの創出に影響が出る。しかし、ハイブリッド勤務に移行すると社員が出社する機会が増え、部門間のコミュニケーションが増え、再び人的ネットワークが広がると期待している。 企業がなすべきことMicrosoftはハイブリッド勤務では企業のカルチャーが重要になると指摘する。 職場は仕事をするためのスペースだけでなく、社員が交流するための場となる。このため、オフィス空間は社員が快適に過ごせるようリモデルする。 また、社員同士の交流を促進するプログラムの導入が必要となる。リモートワークでの孤立感を職場で解消することに加え、社員にとって会社が魅力的な環境となるよう企業カルチャーを育むことが求められる。 ポストコロナの勤務形態実際に、シリコンバレーの企業は在宅勤務で無人となったオフィスのリモデルを進めている。
あちこちで工事が行われ、ポストコロナのオフィス勤務に備えている。 また、スタートアップを中心に社員の交流イベントが実施されてきたが、ハイブリッド勤務ではこれがより重要となる。 夏を過ぎるとオフィスを再開する企業が多く、社員は今までとは全く異なる環境で仕事をすることになる。 Googleは4月1日からオフィスを再開し、一部の社員はリモートワークを終え、会社に戻り始めた。 9月1日からは全社員がハイブリッド勤務となり、週三日オフィスに出勤する勤務体系となる。 社員はワクチン接種が求められ、また、オフィスはリモデルされ、安全を担保しての勤務となる。 Facebookは無期限で在宅勤務を続けるが、Googleは人間同士のつながりを重視し、出社勤務が基本パターンとなる。 オフィスを再開Googleはコロナの感染拡大とともにいち早く勤務形態をリモートワークとしたが、コロナの終息が視野に入る中、他社に先駆けて4月1日にオフィスを再開した。 希望する社員はオフィスに出社して勤務できる。オフィスはリモデリングされ、感染防止対策が取られた。 また、社員はワクチン接種が求められ、安全を考慮したうえでのオフィス勤務となる。 コロナ後の勤務形態9月1日からは、新しい勤務体系となり、全ての社員はハイブリッドで仕事をする。 週三日が出勤日で、社員は改装されたオフィスに出社して、従来のように対面で仕事をする。 これが基本形態で、年間14日を超えて在宅勤務を希望する社員は、要望書を会社に提出する。認可されれば在宅勤務を継続できるが、必要に応じて、出社を求めることがあるとしている。 コロナ終息後は、Googleはハイブリッド勤務で事業を進めることが明らかになった。(下の写真、建設中の本社ビルで今年中にオープンする予定。また、Googleは本社周辺のオフィスビルの買収を進めている。リモートワークで余った物件を買い進めオフィススペースを拡大中。) 勤務地と給与ハイブリッド勤務になると居住地についての制限はないが、Googleは社員が住んでいる地域の物価に合わせて給与を調整するとしている。 郊外の物価が安い街に住むと生活費の負担が減るが、それに合わせて給与が下がることになる。このため、Googleは多くの社員がシリコンバレーに戻ってくるとみている。 まだ在宅勤務が続いているが、シリコンバレーを離れ地方都市で暮らしている社員は少なくない。 出社勤務に戻す理由Google最高経営責任者Sundar Pichaiは、当初から、リモートワークにおける仕事の効率や生産性について疑問視していた。 リモートワークではチームワークの形成が難しく、特に、新製品開発でイノベーションが求められるが、遠隔ではやりにくい。 また、在宅勤務では製品情報など社内の機密情報が外部に流出する危険性も含んでいる。 このため、Googleは社員を会社勤務に戻すが、柔軟な勤務方式も維持し、週2日は在宅勤務を認める。 社員の勤務形態に関する嗜好社員はリモートワークに魅力を感じるとともに、在宅勤務では仕事の限界を感じ、オンラインでのコミュニケーションでストレスが蓄積している。 完全在宅勤務を選択する社員の割合は少なく、柔軟なワークスタイルを維持できるハイブリッド勤務を求めている。 Facebookなど一方、FacebookやTwitterなどはコロナが終息しても、無期限で在宅勤務を続けるとしている。 希望する社員はオフィス勤務に戻ることができるが、リモートワークが勤務体系の基本パターンとなる。 また、社員は居住地を自由に選ぶことができ、環境がいい郊外に引っ越しできる。Facebookの狙いは人事採用にあり、リモートワークに移行することで、北米で幅広く優秀な人材を雇い入れることを目論んでいる。 シリコンバレーから人が流出このように、社員が居住地を自由に選べるようになり、シリコンバレーから人が流出している。 UC BerkeleyとUCLAの研究組織California Policy Labによると、2020年はサンフランシスコから流出する人の数が前年と比べ30%増加した。 一方、人口流入はコロナ以前と同じレベルで、結果として、2020年は流出人口が増えた年となった。(下のマップ、2020年第四四半期の人口流出の割合を示している。赤色の部分が人口流出が多い地域。)。 ポストコロナの勤務形態米国はコロナの感染者数が世界最悪のレベルにあるが、バイデン政権になり感染者数が急速に減少し、ワクチン接種が急ピッチで進んでいる。
このペースで行くと夏までに国民の大部分がワクチン接種を完了すると予想されている。 コロナ終息が視野に入る中、IT企業はオフィスを再開し始めた。多くの企業がハイブリッド勤務を選んでおり、ポストコロナの勤務形態が見えてきた。 ただ、ハイブリッド勤務は今までに経験したことのないワークスタイルで、これから各社は試行錯誤しながら最適なモデルを生み出すことになる。 |