米国の新生児の半数は寿命が100歳を超える。また、2050年までに、米国の平均寿命は100歳を超える。 長寿に伴い、定年が80歳となり、勤労年数が60年を超える時代に突入した。長生きできるのは幸せであるが、60年間仕事を続けるのは苦痛である。また、現行の社会制度は平均寿命が60歳の時に制定されたもので、長寿社会に沿った制度設計が求められる。 米国は100歳時代を迎え、ワークライフバランスの議論が始まった。 100歳時代に備える スタンフォード大学長寿研究所「Stanford Center on Longevity」は、報告書「New Map of Life」を公開し、来るべき長寿社会への備えを提言した。 新生児の半数の寿命が100歳を超え、また、2050年までに平均寿命が100歳となり、米国は長寿社会に突入した。 報告書は、今の社会システムは、人生100年時代にそぐわないもので、新しいライフ設計「New Map of Life」が必要であると提言している。 報告書は、シニア社会をサポートする方策も必要であるが、100歳以上の長寿者(centenarian)に投資すると、そのリターンは大きいとしている。 80歳まで仕事をする社会 報告書は、長寿社会になると、ワークスタイルを見直す必要があるとしている。 現在の定年制度は平均寿命が60歳の時に構築されたもので、平均寿命が100歳を超えると、この制度は実情に合わない。 実際、平均寿命が100歳になると、80歳まで仕事をすることが可能となり、人生設計が劇的に変わる。 米国の雇用制度 米国では定年退職する平均年齢は62歳で(下のグラフ、青色の線)、大学卒業後に就職すると、勤労年数は40年となる。 社員は会社の規定により退職するケースもあるが、資金が十分貯まれば引退するケースが殆どである。 このため、人生100年時代を迎え、80歳まで働くとすると、勤務年数は60年となり、今より労働年数が20年増えることになる。 米国の年金制度 因みに、米国の社会保障は「Social Security」と呼ばれ、年金の受給開始年齢は67歳となる。 年金制度は1930年代に運用が始まり、その当時、受給開始年齢は65歳であった。その後、66歳に引き上げられ、現在(1960年生まれ以降)は67歳となっている(下のテーブル、左側)。 一方、上述の通り、米国の引退年齢の平均は62歳で、社員は生活資金を企業年金プラン(401(k))や個人年金プラン(Individual Retirement Arrangement、IRA)などで補っている。 また、米国では、引退してから契約社員として働くケースは極めて少ない。 引退後は、仕事から完全に開放され、プライベートな生活となる。 子育てや介護の時間 報告書は、労働年数が長くなり、柔軟なワークスタイルを取り入れることを提言している。 これは「Work More Years with More Flexibility」と呼ばれ、今のスタイルでプラス20年働くのではなく、個人のライフプランに合わせた働き方をデザインする。 例えば、子育てで時間が必要な社員は、この期間は働く時間を減らす。また、両親の介護で時間を要する社員は、同様に、労働時間を短縮したワークスタイルを選択する。 柔軟なワークスタイル 米国社員は平均で、週40時間労働(一日8時間労働)をこなす。 この時間の中で、子育てや介護の時間を捻出し、仕事とプライベートの両立で苦しんでいる。 労働年数が長くなると、一律に週40時間労働を適用するのではなく、プライベートな時間が必要な時は、労働時間数を半減するなど、柔軟な仕組みを提言している。 また、勤務形態も在宅勤務など、フレキシブルなスタイルの導入を求めている。 教育システムの改革 人生100年時代には、教育システムを変える必要があると提言している。 生まれてから幼稚園までの期間は、認知力や感性の教育が重要で、これらのスキルを獲得することで、健康な人生を送ることができる。 また、学校教育についていけず落第した生徒については、再度教育を受ける仕組みが必要としている。 更に、大学までの一律な教育の他に、社会に出て人生のそれぞれの節目で、必要な教育を受ける仕組みも必要としている。 企業はどう反応するか スタンフォード大学の提言に対し、雇用側の企業はコメントを発表していないが、これを契機に議論が始まる。 企業としては、柔軟な勤務体系を取り入れると、社員にかかるコストが上昇し、人件費の負担が増える。 一方、社員がフレキシブルに勤務できると、生産性が高まるメリットが期待される。 これらプラス面とマイナス面を考慮し、勤務体系の見直しを進めることになる。 長寿社会に向けた議論 長寿社会に備えて社会制度を見直すことは、政府や企業だけの責任ではなく、医療機関や保険会社など、関係者が多岐にわたる。
国を挙げた改革プロジェクトとなる。報告書は、今の新生児への投資を通し、長寿の恩恵を受けることができる社会の構築が必要としている。 日本は既に長寿社会であるが、米国を含め、世界各国で健康寿命が延びている。 2022年は、長寿社会に向けた制度設計についての議論が始まる年となる。 Googleはヘルスケア部門「Google Health」を設立し、医療技術開発をここに集約した。 Google Healthは医療とAIを組み合わせ、高度なソリューションを開発している。 Googleは次のコアビジネスとしてヘルスケアを選び、事業を大規模に展開しようとしている。 Google Healthとは開発者会議Google I/Oで、Chief Health OfficeのKaren DeSalvoが、Google Healthの最新技術を公表した(上の写真)。 Google Healthはグループ内に散在していたヘルスケア部門を統合して設立された。 Google Healthはコア技術であるAIを医療技術と融合し、インテリジェントな医療システムを開発する。 特に、ビジョンAIでメディカルイメージングを解析することで、病院の医療プロセスを自動化する戦略を取る。 乳がん検査を自動化その一つが乳がん検査の自動化で、ビジョンAIががんを検知し医師の負荷を軽減する。 Googleはシカゴの医療機関Northwestern Medicineと乳がんを判定するシステムの臨床試験を進めている(下の写真)。 マンモグラフィー(Mammography)で撮影したイメージングから、医師が乳がんを判定するが、判定結果がでるまには時間を要す。この期間、患者は不安な日々を過ごすことになる。 GoogleはこのプロセスをビジョンAIで実施し、解析時間を大幅に短縮することに成功した。 検知システムの概要Googleが開発したビジョンAIは医師と同程度の判定精度を持ち、メディカルイメージングからがんを特定する。 AIががんを検知すると医師にアラートが送信され、追加検査など必要な措置が取られる。 これにより、患者は検査結果を即時に知ることができ、精神的な負担が大きく軽減する。 また、AIが医師を置き換えるのではなく、医療ツールとして機能し、最終判定は医師が下す。 眼底検査を自動化Googleは眼底の写真をAIで解析することで、糖尿病網膜症(Diabetic Retinopathy)や糖尿病黄斑浮腫(Diabetic Macular Edema)を特定することに成功した。 これらは失明の原因となるが、早期に検知することでこれを防ぐことができる。 AIは眼底の写真を解析し、出血を示す赤い斑点から糖尿病網膜症を判定する(下の写真左側;正常な眼底、右側;AIは糖尿病網膜症と判定)。 インドで臨床試験インドでは眼科医が少なく患者の多くが、糖尿病が原因で失明に至っている。 この判定をAIで実施することで、多くの人が眼底検査を受けることができる。 このアルゴリズムはGoogleとVerilyで開発され、インドのAravind Eye Hospitalで試験が実施された(下の写真)。患者は特殊なカメラ(Fundus Camera)で眼底の写真を撮影し、AIはイメージングから糖尿病網膜症と糖尿病黄斑浮腫を自動で検出する。 皮膚がんを検知GoogleはビジョンAIを使って皮膚の状態を検査する技術を開発した。 世界で20億人が皮膚や髪や爪に関する問題を抱えているが、皮膚科の医師の数は十分でない。 多くの人がGoogleの検索エンジンで医学文献を探し、自分の皮膚の状態を調べている。 しかし、文献を読み下すのは容易ではなく、Googleは皮膚病を判定するツールを開発した。 スマホアプリとして実装これはスマホアプリとして提供され、皮膚の黒点を撮影し、AIはそれががんであるかどうかを判定する。 被験者はスマホカメラで患部を撮影し(下の写真左側)、身体情報(年齢や性別や幹部の位置など)を入力し(中央)、これらをアップロードする。 AIは写真イメージから、黒点ががんかどうかを判定する(右側)。 皮膚がんの種類は288に及ぶが、AIはこれを正確に判定する。これは消費者向けのアプリとして提供され、問題があれば医師に相談する手順となる。 消費者向けヘルスケア技術開発一方、消費者向けのヘルスケア技術はFitbit部門で開発している。
Googleは人気のウエアラブルFitbitの買収を完了し、スマートウォッチなどの開発を進めている。 スマートウォッチは運動量や心拍数など身体データを収集し、これをAIで解析することで健康管理に関する知見を得ることができる。 Fitbitはハードウェア部門Nestに属し、ここで消費者向けのヘルスケア技術を開発している。 スマートウォッチはバイオセンサーとして機能し、Apple Watchを中心に、消費者向け健康管理のウエアラブルとして市場が急拡大している。 米国で新型コロナウイルスのワクチン接種が急ピッチで進んでいる。 ペースは地域により大きく異なり、サンフランシスコ地区はワクチン接種率が極めて高く、全米で初めて集団免疫(Herd Immunity)に到達した。 集団免疫とは地区住民の殆どがワクチン接種を終え、ウイルスの感染が抑え込まれた状態を指す。 一方、ウイルスの変異や人の往来が進み、集団免疫がコロナの終息に結び付くのか、慎重な意見は少なくない。 ワクチン接種の状況サンフランシスコ地区では2020年12月から医療従事者や高齢者を対象にワクチン接種が始まった。 当初はワクチン供給量が少なく、接種対象者が限定されたが、2021年4月からは16歳以上が対象となり、希望するひとすべてにワクチンが行き渡り、接種回数が大幅に上昇した。 集団免疫に到達このため、サンフランシスコでは少なくとも1回のワクチン接種を済ませた人の割合が72%となった。 また、シリコンバレー中心部サンタクララ郡でもワクチン接種が進み、少なくとも1回の接種を済ませた人の割合は70.4%となった(下のグラフ、上段)。 集団免疫については色々な解釈があるが、集団の7割が免疫を持つと感染の連鎖を断ち切れるとの考え方が主流で、サンフランシスコ地区はこのポイントに到達したことになる。 ただ、日ごとのワクチン接種件数は4月をピークに減少に転じており(下のグラフ)、ワクチン忌避への対応がこれからの課題となる。 感染者数は大きく減少ワクチン接種が進むなかコロナウイルス感染者数が大きく減少している。 いま、カリフォルニア州が米国で一番安全な場所といわれている。全米でワクチン接種が進むが、カリフォルニア州の接種率が突出しており、これがコロナウイルス感染者数に表れている。 サンタクララ郡では2021年1月をピークに感染者数が急速に減少し、今では一日の感染者数が98人となっている(下のグラフ)。人口10万人当たりの感染者数は、米国平均は102人であるが、サンタクララ郡は2.7人と低い数字を示している。 集団免疫についての考え方集団免疫(Herd Immunity)とは、住民の大部分が免疫を持つことで感染病の拡大を防ぐ効果を指す。 多くの住民が免疫を持てばこれが楯となり、病気感染の連鎖を断ち切ることができる。ワクチン接種で体内に抗体が生成され、これが感染症に対する免疫となる。 このポイントに到達するには定義は明快であるが、住民の何割がワクチン接種を受けるとこのポイントに到達するかが議論となっている。 集団免疫は感染の度合いにより決まり、病気が感染しやすい場合は多くの人が免疫を持たないとアウトブレークは止まらない。 病気の感染のしやすさは基本再生産数(Basic Reproduction Number、略称はR0)と呼ばれ、一人の患者から何人に感染するかという指標となる。一人の患者から平均して二人に病気がうつると、基本再生産数は2となる。 新型コロナの基本再生産数新型コロナウイルスは遺伝子が変異し異なるタイプが生まれ、基本再生産数は変異株ごとに異なる。 米国では疾病予防管理センター(CDC)がパンデミック対策の基礎データとして新型コロナウイルスの基本再生産数を2.0から3.0と推定している。 この数字をベースに計算すると、免疫化される集団の割合は0.5から0.67となり、住民の7割がワクチン接種を済ませる必要がある。 集団免疫に到達できないという意見一方、サンフランシスコ地区だけで集団免疫に到達しても、他の地域で感染を抑え込めなければ、人の移動でウイルスが域内に持ち込まれる。 また、新型コロナウイルスはRNAタイプで、頻繁に変異を繰り返し、感染力の強いウイルスが生まれている(下のマップ、米国で広がる変異株)。 カリフォルニア州は英国型変異株(B.1.1.7)が主流で感染者が増える要因となっている。 今後、ワクチンをすり抜けるウイルス変異株の発生が予測され、集団免疫を維持できるのかが問われている。 ワクチン忌避の問題また、集団免疫に到達するのを阻害する要因としてワクチン忌避(vaccine hesitancy)がある。 宗教的または心情的な理由でワクチンの接種を躊躇する集団があり、ワクチン接種が進まない原因となっている。 新型コロナウイルスのケースでは地域により際立った特性を示している(下のマップ、色の濃い部分:ワクチン忌避率が高い地域)。 ワクチン忌避の全米平均が37%であるのに対し、サンフランシスコ地区は8%と極めて低く、これがワクチン接種率を押し上げる要因となっている。(カリフォルニア州やニューヨーク州など民主党基盤ではワクチン忌避率は低い。一方、ユタ州やノースダコタ州など共和党基盤ではワクチン忌避率が高い。) ワクチン接種が身近になる宗教や政治や信条によるワクチン忌避者を説得することは難しいが、ワクチン接種が進まないもう一つの理由は接種を受けるプロセスの複雑さにある。 バイデン政権はこの問題を解決するために、全米で統一したサイトを開発した。 これは「Vaccines.gov」と呼ばれ、このサイトから自宅周辺の接種場所を検索し、そこでワクチン接種の予約ができる(下の写真)。 今では、大型施設での集団接種だけでなく、薬局やスーパーマーケットで手軽に接種できるようになった。 これでワクチン接種を躊躇する問題が解決すると期待されている。 全米で集団免疫を目指すトランプ政権ではコロナ感染症対策の効果が上がらず、感染者や死者の数が急増し社会に危機感が広がった。 バイデン大統領が就任してからは感染防止対策が徹底し、また、ワクチン接種が急ピッチで進んでいる。 バイデン大統領はアメリカ独立記念日(7月4日)までに、国民の70%が少なくとも一回のワクチン接種を終えることを目標に定めた。 集団免疫という言葉は使わなかったが、この目標を達成すると感染を抑えみ、普段の生活に戻ることができる。アメリカのコロナ感染症対策はバイデン政権で大きな転機を迎えた。 ワクチン接種を受けてみると・・・ ワクチン接種の予約が取れない実際に、二回のワクチン接種を済ませたが、ハプニングに見舞われながらも、米国巨大プロジェクトの機敏性を感じた。 ワクチン接種で苦労したのは予約の取得であった。 ワクチン接種の責任者がカリフォルニア州政府、地方自治体、病院など複数の団体にまたがっており、それぞれのサイトにアクセスし、空きスポットを探すこととなった。 カリフォルニア州政府のサイトで予約待ちをしていたが回答は無く、最終的に、サンタクララ郡が運営するメガサイト(サンフランシスコ・フォーティナイナーズのスタジアム、下の写真)で1回目のワクチン(ファイザー)接種を受けた。(この問題を解決するため上述のVaccines.govが開発された。) ワクチン接種がキャンセルとなる二回目のワクチン接種は21日後に同じサイトで予約していたが、サンタクララ郡から予約をキャンセルしたとの連絡を受けた。 理由はワクチン供給量の不足で、Kaiser Permanente(かかりつけの病院)がワクチンを”横取り”したので、そこで二回目の接種を受けるよう指示された。 急遽、病院に問い合わせ、調整を重ねワクチン接種の予約が取れた。 病院の特設テントで接種を受ける病院は大量のワクチン接種を行えるよう、敷地内に特設テントを設け(一番最初の写真)、野戦病院と化して接種を進めた(上の写真)。
接種会場でワクチンの効用や副反応などの資料を手渡され、また、専任スタッフが質問に応じてくれた。 ワクチン接種のデータは病院の電子カルテに入力され、ホームドクターがこれを確認する手順となった。 誰もが初めての経験で、失敗しながらも政府と民間が共同で大きなプロジェクトを推進するダイナミックさを実感した。 |