自動運転ロボット「Nuro」がシリコンバレーで営業運転を開始した。 Nuroはトヨタ・プリウスをベースとした自動運転車で、注文した商品を玄関先まで配送する。今はセーフティドライバーが搭乗しているが、将来は、無人車両が商品を配送する。 コロナの感染拡大で、Eコマースによる宅配事業が急拡大しており、自動運転ロボットへの期待が高まっている。 セブンイレブンと提携Nuroはコンビニ「セブンイレブン」と提携し、カリフォルニア州マウンテンビュー市で宅配サービスを開始した。 オンラインで購入した商品を、トヨタ・プリウスをベースとした自動運転ロボットが、消費者宅まで配送する(上の写真)。Nuroはドライバーの介在なく自動で走行する。 Nuroは、専用車両「R2」を開発しており(上の写真左端の車両)、次のステップは、ロボットが無人で商品を宅配する。 実際に使ってみると早速、Nuroによる配送を試してみたが、全てのプロセスがスムーズに動いた。 セブンイレブンで商品を購入するために、専用アプリ「7NOW」を使った(下の写真)。 ショッピング画面(左側)で宅配を選択し、希望する商品を購入した(中央)。 支払い処理が終わると、店舗側で商品をNuroに積み込む作業が始まる。その後、Nuroがセブンイレブンを出発し、目的地に向かった。Nuroの位置はマップに表示され、運行状態を確認できた(右側)。 Nuroが無事に到着Nuroは、自宅前に停止し(下の写真)、配送スタッフが購入した商品を玄関先まで届けてくれた。 Nuroには、セーフティドライバーが搭乗しており、クルマを安全に運行する。 スタッフに話を聞いてみると、Nuroは殆どの区間を自動で走行するが、時々、セーフティドライバーがステアリングを操作するとのこと。(実際、Nuroは玄関前を通り越し、隣の家で停車したため、セーフティドライバーがマニュアル操作で、Uターンして自宅前にクルマを移動した。) カリフォルニア州の認可Nuroは、営業運転を開始するにあたり、カリフォルニア州の陸運局 (Department of Motor Vehicles)から、公道を無人走行するための認可を受けた。 走行できる地域が指定されており、Nuroはサンタクララ群とサンマテオ群で営業運転を展開できる。また、走行できる道路も規定され、定められたルートを安全に走行する。 事実、営業運転は、サンタクララ群のマウンテンビュー市で開始された。(下の写真、試験走行中のNuro) 次のステップNuroは自動運転ロボット「R2」を開発している(下の写真)。 R2はレベル5の自動運転車で、ロボットが無人で、商品を消費者宅に配送する。 消費者は、ウェブサイトで商品を購入すると、R2がこれを配送する。R2は玄関先に停車し、消費者は貨物ベイのハッチを開けて商品を取り出す仕組みとなる。現在は、食料品の配送が中心であるが、将来は、医薬品の配送も計画されている。 ロボット宅配需要が高騰新型コロナの変異株「Omicron」の感染が広がり、パンデミックの終息が見通せなくなり、宅配サービスの需要が急騰している。
レストランの出前サービスの他に、食料品の配送ビジネスが拡大している。 小売店舗側はNuroと提携し、ロボットによる宅配サービスを進めている。 セブンイレブンの他に、スーパーマーケット「Kroger」やドラッグストア「CVS」がNuroによる宅配サービスを展開している。これらの需要に応えるため、Nuroは技術開発を加速している。 Waymoは今週、サンフランシスコで住民を乗せて自動運転車の走行試験を開始することを発表した。 これは「Waymo One Trusted Tester Program」と呼ばれ、自動運転車に関する住民の意見を把握することを目的とする。 特に、自動運転車が高齢者や非健常者の日常生活を支援できるかを検証することがプログラムの中心となる。 住民を乗せて走行試験この実証試験は、Waymoの自動運転車最新モデル「Jaguar I-PACE」で実施される(上の写真)。 クルマは自動運転技術「Waymo Driver」の最新版「5th Generation」を搭載している。 Waymoはアリゾナ州フェニックスで営業運転を展開しているが、サンフランシスコでは2021年2月から社員が乗客となり試験走行を進めている。 道路が整備されたフェニックスとは異なり、サンフランシスコでは市街地の込み合った道を安全に走行する技術が求められる。 検証のポイントクルマには専任スタッフ「Autonomous Specialist」が搭乗して試験走行が実施される。 このプログラムは自動運転車が住民の生活に如何に役立つかを検証する。 サンフランシスコはバスや路面電車の他に、UberやLyftなどライドシェアサービスが充実している。 この環境でWaymoの特性を把握し如何に差別化を図るかが問われる。 Waymoは高齢者や非健常者の足となることを想定しており、車いすや杖を使って生活する住人が自動運転車をどう評価するのかを解析する(下の写真)。 また市当局と共同で、Waymoが公共交通機関と連携して住民が移動しやすくする仕組みを構築する。 サンフランシスコでの世論調査Waymoはこれに先立ちサンフランシスコで自動運転車に関する住民の世論調査を実施した。 地域住民にクルマの運転や生活における移動方法などを訪ねたもので、地域の特性が明らかになった。 サンフランシスコにおける運転で困ることのトップは駐車場が少ないことで、また、公共交通機関がスケジュール通り運行していないことも課題となる。 また、サンフランシスコは高齢者や非健常者が多いことも特徴で(下のグラフ)、94,000人が移動手段で問題を抱えている。 試験走行エリアWaymoは試験走行エリアを示していないが、米国メディアはサンフランシスコのダウンタウンを除く部分としている。 ユニオンスクエアを中心とするダウンタウンはオフィスビルが立ち並びビジネス街や観光地となっている。 Waymoは、この地域は走行せず、住民が住んでいるサンフランシスコ西部と南部を中心に試験する。 因みに、曲がりくねったロンバード・ストリート(Lombard Street)は試験エリアに含まれていない。 Waymo Drive最新モデルWaymoはセンサーとしてLidar、カメラ、レーダーを搭載し(下の写真)、これをソフトウェアで解析し自動で走行する。 Waymo Driveの最新モデル5th Generationではセンサーの機能やパッケージングが改良された。 レーダーは「Imaging Radar System」と呼ばれ、カメラのように高解像度でオブジェクトを把握することができる。 また、Lidarやカメラは構造がシンプルになり製造コストを半分にすることに成功した。 これから自動運転技術が本格的に製造されるが、Waymo Driveの量産体制が整った。 高齢化社会と自動運転車サンフランシスコは、全米の中で自動運転車にとって最も高度な技術を必要とする都市となる。
ここで安全に走行できれば他の都市でも運行できることになる。 このため、Waymoの他に、GM/CruiseやAmazon/Zooxがサンフランシスコで自動運転車の開発を進めている。 自動運転車の出荷を目前に控え、Waymoは高齢者や非健常者の足として生活を支えるクルマとして商品化している。 日本を含め世界で高齢化が進む中で自動運転車の役割が重要になってきた。 テスラは自動運転ソフトウェアのベータ版のリリースを開始した。これは「Full Self-Driving(FSD)」と呼ばれ、クルマは市街地で自動で走行する。ついに、自動運転車が市場に投入された。 ただ、このソフトウェアはベータ版で、最終製品が出荷されるのは2021年末となる。 これに向けてAI開発が急ピッチで進んでおり、テスラはAI学会でコンピュータビジョンの開発状況を明らかにした。 自動運転技術の開発経緯テスラの自動運転ソフトウェアFull Self-Driving(FSD)は AIで構成され、クルマにダウンロードすることで自動運転車となる。 テスラは2020年10月にベータ版「FSD Beta」を公開し、先行ユーザが試験走行を進めてきた。 テスラはこれを改良し、今週、最新版「FSD v9 Beta」のリリースを開始した。 FSD v9 Betaは自動運転機能で、市街地をドライバーの介在無しに自動で走行する。 FSD v9 Betaの最大の特徴は、LidarやRadarを使わないで、カメラの映像だけで自動走行できることにある。 もはや、Radarも不要で、テスラ最新モデルはRadarの搭載を止め、カメラだけが実装され、センサーの構成がシンプルになった。 Full Self-DrivingとはFull Self-Driving(FSD)とはAIで構成されたコンピュータビジョンで自動運転車の中核機能となる。 カメラで捉えたビデオ画像をAIが解析し、オブジェクトの種類、オブジェクトまでの距離、及び、オブジェクトの移動速度を把握する。 テスラはこのAIを「General Computer Vision」と呼び、屋外で汎用的に使えるコンピュータビジョンとしている。 クルマは霧の中や雪道を走るが、General Computer Visionは視界が悪い環境も正しくオブジェクトを判定できる。(下の写真、試験走行中のFull Self-Driving) コンピュータビジョン学会テスラのAI開発責任者であるAndrei Karpathyは、コンピュータビジョン学会「Conference on Computer Vision and Pattern Recognition(CVPR)」でテスラのAI開発状況を説明した。 テスラの自動運転ソフトウェアFSD Betaは2000人が利用しており、170万マイルを無事故で走行した。 更に、上述の通り、最新版FSD v9 Betaが公開され、学会ではこのモデルについてシステム概要が公開された。 テスラの開発戦略テスラのターゲットはカメラだけで自動走行できるAIの開発にあり、Karpathyはそのための開発手法を明らかにした。 Waymoはアリゾナ州で自動運転タクシーを運行しているが、カメラの他にLidarやRadarを使い、異なる種類のセンサーで周囲のオブジェクトを判定する。 一方、テスラはLidarやRadarを使わないで、カメラだけで自動運転技術を開発する。極めて高度なコンピュータビジョンを必要とし、テスラはAIに会社の将来を託す形となった。 カメラの構造クルマは前後左右に8台のカメラを搭載し、これらのビデオ映像をAIで解析し、周囲のオブジェクトを把握する(下の写真)。 AIは8つのビデオ映像から周囲を3Dで把握して、オブジェクトの種類や距離や速度を把握する。 アルゴリズムの開発手法テスラは高度なコンピュータビジョンを開発するために、ニューラルネットワークを大量のデータで教育する戦略を取る。 クルマが走行中に遭遇する全ての状況を収集し、このデータを使ってニューラルネットワークを教育すると、自動走行できるポイントに到達すると考える。このため、テスラは大規模な教育データセットを構築した。 このデータセットには100万のビデオが格納され、そこに映っているオブジェクトの数は60億で、それらにはタグが付加されている。 タグ付けとはタグ付けとはビデオに映っているオブジェクトの属性を添付するプロセスを指す。 教育データ開発では、カメラに映ったオブジェクトに(下の写真上段)、その属性を付加する作業が必要になる。 通常、オブジェクトを四角の箱で囲い、その種別を付加する(下段)。タグ付け作業は専門会社に依頼するが、テスラの場合はオブジェクトの数が膨大で、人間がマニュアルで作業することはできない。 このため、テスラはタグ付けを行うAIを開発し、これをスパコンで稼働させ大量のデータを処理する。 スパコンがビデオを読み込み、そこに映っているオブジェクトの種類を判定し、自動で名前を付加する。 世界最大規模のスパコンこのプロセスは大規模な計算環境を必要歳、テスラはスパコンを独自に開発し、AIによるタグ付け処理を実行する(下の写真)。 処理能力は1.8 exaFLOPSで世界のスパコンの中で第五位の性能となる(下の写真左側、プロセッサ部分)。 プロセッサはNVIDIA A100をベースに760ノードで構成され、5760のGPUで構成される。 また、メモリ容量は10 PBでネットワーク通信速度は640 Tbpsとなる(下の写真右側、ネットワーク部分)。 自動運転AIを開発するには、世界でトップレベルのスパコンが必要となる。 ベータ版の評価既に、先行ユーザはFSD v9 Betaをクルマにダウンロードし、自動運転機能を試験している。 トライアルの様子はビデオで撮影されネットで公開されている。 これらのビデオによると、テスラは市街地において信号機に従って走行し、また、一旦停止の交差点で順番を守って発進する機能も確認されている。 複雑な市街地でドライバーの介在無しに自動で走行できることが示されている。 同時に、道路標識を見落とすケースなども記録されており、まだ完ぺきではないことも分かる。 FSD v9 BetaはあくまでLevel 2の自動運転支援システムであり、ドライバーはステアリングに手をかけ、先方を注視しておく必要がある。 大量のデータで教育すると自動運転車となるかMuskは、FSDのAI技術の改良を重ね、2021年末までに最終製品を出荷すると述べている。
今年末までに自動運転車を出荷できる根拠として、MuskはこのペースでAI開発を進めると、アルゴリズムのエラー率が大きく下がると予測している。 FSDは自動で走行するが、AIが判断を間違えた時は、ドライバーが手動でこれを補正する。 年末までに、AIが学習を重ねこの補正操作が不要となるとみている。 上述の通り、AIを膨大な数のデータで教育すると、このポイントに到達できるという前提の下で開発を進めている。 ただし、この仮定は実証されておらず、テスラにとっては大きな賭けとなる。 あと半年でFSDが自動運転車になるのか、市場が注目している。 NVIDIAは2021年4月、開発者会議「GPU Technology Conference (GTC)」で、プロセッサとAIの最新技術を公開した。CEOのJensen Huangは基調講演で自動運転車向けのプロセッサと開発環境を解説。 Googleなどは独自技術で自動運転車を開発するが、NVIDIAはプロセッサやリファレンスモデルを提供し、一般企業がこれを使い短期間で自動運転車を開発する。パソコンがIntel x86で組み立てられるように、自動運転車はNVIDIAの標準プロセッサで開発される。 NVIDIAの自動運転技術NVIDIAは世界最高速の車載AIプロセッサ「Atlan」を発表した。 また、自動運転車のリファレンスモデル「Hyperion」を公開し、企業はこのテンプレートを使って自動運転車を開発する。 更に、高精度のシミュレータ「Drive Sim」を発表した。これはデジタルツインを生成する技術「Omniverse」で構成され、現実社会に忠実な仮想社会が生成され、ここで自動運転車の試験や検証を実行する。 AIプロセッサ:AtlanNVIDIAは、自動運転車向けの車載AIプロセッサを開発してきたが、その第四世代となる「Atlan」を発表した(下の写真)。 Atlanは世界最高速の車載AIプロセッサで、NVIDIAはこれを「クルマに搭載されたデータセンター」と呼んでいる。Atlanは3つのモジュールで構成され、AI演算を司るGPU「Ampere」、汎用プロセッサCPU「Grace」、データ処理プロセッサDPU「BlueField」から成る。 Graceとは、NVIDIAが開発したCPUで、ARMベースのアーキテクチャとなる。また、BlueFieldは、セキュリティ機構や通信処理機能を備えた専用プロセッサで、車載プロセッサに組み込むのは今回が初となる。 AIアルゴリズムを高速で処理Atlanは自動運転AIを実行するプロセッサで、クルマに搭載されたカメラやLidarのデータを解析し、進行経路を算出する。 また、Atlanはクルマと運転者のインターフェイスとなるAIを実行する。 クルマは搭乗者と音声で会話し、また、運転者の身体状況をモニターする。Atlanの性能は1,000 TOPS(毎秒1,000兆回の演算)能力を持ち、現行モデル「Orin」の4倍の性能となる。Orinは2022年から生産が開始され、Atlanは2023年からサンプリングが始まり、2025年のモデルに搭載される。 VOLVOはOrinで自動運転車開発GTCでVolvoはNVIDIAと自動運転車の共同開発を進め、Orinを搭載した自動運転車を2022年に出荷することを明らかにした。 Volvoの高級SUV「XC90」にOrinが搭載され、レベル4の自動運転車となる(下の写真)。 Volvoの次世代車両は自動運転に対応したアーキテクチャとなり、必要なハードウェアを実装し、ソフトウェアのアップデートで自動運転車となる。 また、クルマは位置情報と気象情報を把握し、自動運転できる条件を自動で判断する。自動運転技術は Volvoの子会社 Zenseactで開発され、Volvoはインテリジェントなモビリティ企業に変身している。 自動運転リファレンスモデル:HyperionNVIDIAは自動運転車のリファレンスモデル「Hyperion」の最新版を発表した(下の写真)。 これは自動運転車の開発キットで、ハードウェアとソフトウェアで構成される。企業や大学はこのモデルを使って短時間で自動運転車を開発できる。ハードウェアは、プロセッサとしてOrin(2セット)、センサーはカメラ(外部搭載が12台で車内搭載が3台)、レーダー(9台)、Lidar(2台)で構成される。 ソフトウェアは評価ツールで、NVIDIAの自動運転ソフトウェアを使って開発したシステムをここで検証する。 自動運転ソフトウェアNVIDIAは自動運転ソフトウェアをオープンソースとして公開しており、これを利用して自動運転車を開発する。 これは「Drive Software」と呼ばれ、基本ソフトウェア「Drive OS」、開発環境「DriveWorks」、自動運転機能「Drive AV」、運転者監視機能「Drive IX」から構成される。 これらのソフトウェアを Hyperionと組み合わせレベル4の自動運転車を短期間で開発できる。 実際に、バージニア工科大学は Hyperionで自動運転車を開発し、自動運転技術の研究で活用している。 自動運転シミュレータ:Drive SimNVIDIAは自動運転車ソフトウェアを開発するシミュレータを発表した。 これは「Drive Sim」と呼ばれ、実社会を忠実に再現した高精度なシミュレータとなっている。 シミュレータで自動運転AIのコア技術であるコンピュータビジョンのアルゴリズムを教育する。 また、完成した自動運転ソフトウェアを試験する環境として使う。(下の写真、シミュレータが描写するシーンであるが、現実社会と見分けがつかないだけでなく、物理現象が正確に再現されている。) デジタルツイン開発技術:Omniverseシミュレータはデジタルツインを生成する技術基盤「Omniverse」をベースに開発された。 シミュレータはクルマに搭載されたセンサーが収集するデータを忠実に再現することが求められる。 また、クルマは異なる環境で走行し、外部の光の状態を正確に描き出すことが必須要件となる。 従来はゲームエンジンで生成されていたが、上記の要件を満たすためOmniverseが開発された。 これにより、シミュレータは物理現象を正確に反映し、アルゴリズムの教育や検証で効果をあげることが期待される。 自動運転プロセッサの国際標準NVIDIAの自動運転プロセッサはVolvoの他に、GM CruiseやAmazon Zooxなど先進企業が採用している。
また、NVIDIAは Mercedes-Benzとソフトウェアで定義されたクルマ「Software-Defined-Vehicles」を開発している。Mercedes-BenzにOrinを搭載し、レベル4の自動運転車として製品化する(最初の写真)。 多くの自動運転車ベンダーがOrinの採用を始め、Nvidiaはクルマの国際標準プロセッサとなる勢いをみせている。 |