メタバースで都市開発が始まった(下の写真)。 メタバースとは、インターネットに構築された3D仮想社会で、ここに現実社会のように街が生まれている。メタバースで土地を購入し、施設を建設し、ビジネスを興す。テーマパークを建設しアドベンチャーゲームを始める。音楽ホールを造るとコンサートを開催できる。 現実社会のデジタルツインともいえる仮想都市で、ビジネスが始まり、メタバースの経済構想が見えてきた。 仮想都市の開発3D仮想空間で都市開発を手掛けているのは Sandbox という新興企業で、メタバースで新しい事業モデルを生み出している。 Sandboxは、仮想社会のゲームを通して、メタバースを開発する手法を取る。個人や企業は、仮想社会でゲームやデジタルアセットを開発し、これらを販売することで収益を上げるモデルとなる。 メガシティメタバースに大都市「Megacities」が建設され、企業や著名人や個人が土地を購入し、事業を始めている。 Sandbox にログインしてマップを見ると、メガシティの見取り図が示される(下の写真)。 土地は区画で仕切られ、その大きさは96×96フィートとなる。 この区画を単一、または、複数購入することができる。大地主はアイコンで示されている。 2021年には、12,000区画の土地が販売され、累計で8,000万ドルの売り上げとなっている。Sandbox全体では、166,464区画整備され、累計で5億ドルの資産を保有していることになる。 自宅を建設土地を購入すると、ここに自宅を建てて、生活することができる。家屋のデザインを決め、提供されているツールで建物を建設する(下の写真)。 屋内には、家具や調度品を配置し、生活できる環境を整える。現実社会と同じように、不動産が値上がりすれば、売って利益を得ることができる。また、著名人の住宅の近くに土地を買えば、値上がりする可能性が高いとも言われる。 事業モデル人気ラッパーのスヌープ・ドッグ(Snoop Dogg)は、メタバースに土地を買い(一つ上上の写真、中央部)、ここに大邸宅を建設した(下の写真)。 庭には広いプールがあり、愛用しているクルマが駐車されている。ここに友人を集めてパーティーを開くことができる。 また、コンサート会場としてライブイベントを開催できる。実際に、スヌープ・ドッグはライブイベントを開催する予定で、そのチケット「Private Party Pass」の販売を開始した。また、スヌープ・ドッグのアバターや、愛用しているクラッシックカーは、デジタルアセットとして販売されている。 このように、メタバースでは、土地への投資、イベントの開催、デジタルアセットの販売で、事業を運営する。 メタバース開発ツール購買した土地に建物を建設し、ビジネスを興すためには、Sandboxが提供しているツールを利用する。 これは、「VoxEdit」と「Game Maker」と呼ばれ、コーディングすることなく、オブジェクトを生成することができる。エンジニアでなくても誰でも使える点に特徴がある。 デジタルアセットの開発 VoxEditはデジタルアセット「ASSET」を生成するツール(下の写真)。 デジタルアセットとは、仮想のオブジェクトで、アバターや衣服などが含まれる。具体的には、ASSETは4つのクラスから構成され、 ・Entity (人間や動物などのキャラクタ) ・Equipment (ゲームで使う刀などの武器) ・Wearable (シャツやジーンズなどの衣服) ・Art (アートワークなどの装飾品) となる。 生成したアセットはNFT(Non-Fungible Token)というトークンに変換される。 NFTとはコンテンツの所有者を証明するトークンで、コンテンツの所有権を示す証文となる。 これにより、コンテンツの取引が可能となり、メタバースでNFT取引がブームとなっている。NFTに変換されたデジタルアセットは、Sandboxのマーケット「Marketplace」で取引される。 ゲームの開発Game Makerはメタバースで様々なアクティビティ「Experiences」を生成するツール(下の写真)。 アクティビティの中心がゲームで、Game Makerは生成したASSETを使ってゲームを作成する。また、ゲームの他に、NFTを販売するギャラリー「NFT Gallery」や、住民が集う施設「Social Hub」を作成するためにも利用する。また、自宅を建設するときもGame Makerを使う。 ゲームの種類既に多くのゲームが開発されプレーされている(下の写真)。 ゲームは二種類に分類され、アドベンチャーゲーム「Action Adventure」とパズルゲーム「Puzzle Games」となる。前者は敵と戦いながら目的を達するゲームで、後者はパズルを解きながら謎を解明するゲーム。これらのゲームは無料でプレーできるが、ゲーム内でデジタルアセットを購買するモデルとなる。 デジタルアセットの販売デジタルアセットの販売サイト「Marketplaces」には、数多くのNFTが掲載され、取引されている。これらはVoxEditで生成されたもので、人気キャラクターやグッズを中心に売買されている。 メタバース向けのデジタルアセットを開発しているLululandは、ゲーム内で使うWearablesを販売している。白色のスニーカー「White Angel」は777.00 SANDで販売されている。ドルに換算すると$3,760.68となる。「SAND」とはSandboxが開発した固有の暗号通貨で、今日の交換レートは1 SAND = 4.81ドルとなる。 クリエーター経済これらのゲームやデジタルアセットは Sandbox が提供するツールで開発された。ツールはNoCode(ノーコード開発プラットフォーム)で、プログラミングの知識なしに、誰でも簡単に使える仕様となっている。このため、クリエーターやデザイナーやアーティストなどが(下の写真)、これらのツールを使ってゲームを開発し、デジタルアセットを生成している。 クリエーターたちはメタバースで事業を興し、収入を得る手段を得た。これは、クリエーター経済「Creator Economy」と呼ばれ、メタバースの新しい経済構想として注目されている。 Sandboxのシステム構成Sandboxは、ブロックチェイン「Ethereum」に構築された仮想社会。 このプラットフォームで、土地やデジタルアセットが売買され、ゲームがプレーされる構造となる。 「SAND」はSandboxが開発した暗号通貨で、メタバース内での決済で使われる。「LAND」はメタバースの一部で、「ASSET」はユーザが生成したオブジェクトで、「GAME」はこれを組み合わせたものとなる。 これらはEthereumで稼働するトークンで、Sandboxはブロックチェインを基盤とするシステムと位置付けられる。現在のSandboxはアルファ版で、2022年第一四半期に正式製品が公開される。 ハイプかリアルかメタバースで土地が高値で取引され、アートギャラリーでNFTの販売が好調である。
インターネットにメタバース経済圏が出現し、新しいビジネスが続々と立ち上がっている。ベンチャーキャピタルは強気の姿勢で投資を進めている。 一方、ウォールストリートは、成り行きをウォッチしているが、慎重なポジションを取っている。メタバースはハイプで終わるのか、それとも、巨大ビジネスとして開花するのか、2022年は節目の年となる。 メタバースで不動産投資が過熱している。メタバースとは、インターネットに構築された3D仮想社会で、ここで現実社会のように土地が売買されている。 購買した土地に施設が建設され、街が生まれる。値上がりする前に土地を購入する動きが顕著で、仮想都市で不動産取引がブームとなっている。 ただし、メタバースでの土地取引は経験したことのないビジネスモデルで、投資には幅広い視点からの判断が必要となる。 メタバースで不動産投資 メタバースとは、インターネットに構築された3D仮想社会で、ここに人々が集い交流する。 この仮想社会で都市開発が始まった。まだ、多くの土地は更地で、ここに商業施設やイベント会場が建設され、街が生まれている。 いまここに土地を買っておけば、ビルが建設され(上の写真)、企業が入居し、賃貸収入を得ることができる、という目論見がある。また、将来、土地を高値で売ることもできる。このような背景から、メタバースの不動産投資に注目が集まっている。 メタバースの不動産会社 メタバースで土地を購入するには、”不動産会社”を介することになる。 いま、土地ブームで”不動産会社”の数が増えているが、その代表はDecentraland。同社はアルゼンチンの新興企業で、現在は、カナダのToken.comが買収し、傘下で事業を継続している。 Decentralandは、インターネット上に仮想社会を構築し、ここで不動産を売買するサービスを提供している。また、仮想社会で都市開発を進め、デベロッパーとしての機能も有している。 メタバースを歩いてみると 実際に、開発が始まった街を歩いてみると、殆どが空き地で、その一角に施設が建設され、賑わいを見せている。 Decentralandの仮想都市は3Dゲームを彷彿させるグラフィックスで描写される。 利用者はアバターとなり仮想都市を訪問する。市街地の中心部は「Genesis Plaza」と呼ばれ、ここに商業施設やイベント会場などがある(下の写真)。 店舗や施設でデジタルグッズを購入することができる。また、他のアバターと会話することもできる。 サザビーズが店舗を構えるDecentralandの仮想都市に大手企業が進出を始めた。 イギリスのオークションハウス「サザビーズ(Sotheby’s)」はDecentralandに仮想店舗を設け事業を開始した(下の写真)。 これはロンドンの店舗のデジタルツインで、外観だけでなく内部構造もリアル店舗の複製になっている。仮想店舗はデジタルアートを中心に作品を販売している。 実際に、サザビーズ店舗で開催されたイベント「Natively Digital」が仮想店舗にライブで配信された。 土地の購入 メタバースで土地を購入するには、”不動産会社”であるDecentralandを介すことになる。 土地の基本ユニットはパーセル「Parcel」で、これが購買単位となる(下の写真、最小のマス目)。 購入済みの土地は水色で示され、灰色の部分が購入可能な物件となる。 支払いは暗号通貨「MANA」を使って決済される。また、土地はデジタルグッズであり、その所有権はNon-Fungible Tokens(NFT)で規定される。 現実社会で土地を購入すると、売買契約を結び、不動産の登記をするが、メタバースではこのプロセスがNFTで実行される。 土地の価格は場所により決まり、下記のParcel(赤色の四角)の購買価格は$10,290ドル(日本円 約110万円)。 Parcelの大きさは16 x 16 メートルで、1平方メートル当たり$40.20となる。 土地購買の仕組み Decentralandは土地をブロックチェイン上に構成されるトークンと位置付ける。 企業や消費者は、ここで土地というトークン「LAND」を購入する。 土地はパーセル「Parcel」という単位で構成され、これが最小区画となる。複数の区画を纏めて購入し、これらをマージして私有地というトークン「Estate」を作ることもできる。 決済はDecentralandが開発した独自の暗号通貨「MANA」で行われる。 Decentralandのシステム構造 Decentralandはブロックチェイン「Ethereum」で構築された仮想社会で、ここで土地売買や事業活動を行う。 このプラットフォームで、土地を購入し、建物などを建設する。また、建設した店舗でデジタル商品を販売することもできる(下の写真、スポーツカー販売の事例)。 更に、独自のアプリケーションを開発し、新しい事業を展開することも可能となる。 トークンの種類 Decentralandは土地取引で三つのトークンを運用する:
トークンの中でLANDとEstateはNon-Fungible Token(NFT)で、これがデジタルアセットを所有している保証書となる。また、MANAはFungible Tokenで、暗号通貨として対等に交換することができる。 スマートコントラクト 土地やグッズの売買は、Ethereumのスマートコントラクト「Smart Contract」で規定される。 これはEthereumのアプリケーションで、取引の手順を規定し、売買契約や所有権を規定する。 更に、プラットフォームは、特定の団体で管理されるのではなく、利用者が共同で管理する仕組みとなる。 これは「DAO(Decentralized Autonomous Organization)」と呼ばれ、Decentralandは分散構造の自立型プラットフォームと区分される。 注意事項Decentralandを訪ねてみると、ここは3D仮想社会で、15年ほど前にブームになった「Second Life」を思い出す。
インターフェイスは似ているが、Decentralandはブロックチェイン基板上のサービスで、システム構造が根本的に異なる。 ここで、NFTなどトークンをベースとする商取引が始まり、新しい市場が生まれると期待されている。 特に、コロナの感染拡大で在宅勤務が続く中、交流の場としてメタバースが注目されている。(上の写真、今年のニューイヤーのカウントダウンは、Decentralandの仮想タイムズスクエアで開催された。) ただし、メタバースでの土地取引は誰もが初めての経験で、実際に購入する際は、先進事例を参考に、ビジネスモデルを理解しながら進める必要がある。 米国の新生児の半数は寿命が100歳を超える。また、2050年までに、米国の平均寿命は100歳を超える。 長寿に伴い、定年が80歳となり、勤労年数が60年を超える時代に突入した。長生きできるのは幸せであるが、60年間仕事を続けるのは苦痛である。また、現行の社会制度は平均寿命が60歳の時に制定されたもので、長寿社会に沿った制度設計が求められる。 米国は100歳時代を迎え、ワークライフバランスの議論が始まった。 100歳時代に備える スタンフォード大学長寿研究所「Stanford Center on Longevity」は、報告書「New Map of Life」を公開し、来るべき長寿社会への備えを提言した。 新生児の半数の寿命が100歳を超え、また、2050年までに平均寿命が100歳となり、米国は長寿社会に突入した。 報告書は、今の社会システムは、人生100年時代にそぐわないもので、新しいライフ設計「New Map of Life」が必要であると提言している。 報告書は、シニア社会をサポートする方策も必要であるが、100歳以上の長寿者(centenarian)に投資すると、そのリターンは大きいとしている。 80歳まで仕事をする社会 報告書は、長寿社会になると、ワークスタイルを見直す必要があるとしている。 現在の定年制度は平均寿命が60歳の時に構築されたもので、平均寿命が100歳を超えると、この制度は実情に合わない。 実際、平均寿命が100歳になると、80歳まで仕事をすることが可能となり、人生設計が劇的に変わる。 米国の雇用制度 米国では定年退職する平均年齢は62歳で(下のグラフ、青色の線)、大学卒業後に就職すると、勤労年数は40年となる。 社員は会社の規定により退職するケースもあるが、資金が十分貯まれば引退するケースが殆どである。 このため、人生100年時代を迎え、80歳まで働くとすると、勤務年数は60年となり、今より労働年数が20年増えることになる。 米国の年金制度 因みに、米国の社会保障は「Social Security」と呼ばれ、年金の受給開始年齢は67歳となる。 年金制度は1930年代に運用が始まり、その当時、受給開始年齢は65歳であった。その後、66歳に引き上げられ、現在(1960年生まれ以降)は67歳となっている(下のテーブル、左側)。 一方、上述の通り、米国の引退年齢の平均は62歳で、社員は生活資金を企業年金プラン(401(k))や個人年金プラン(Individual Retirement Arrangement、IRA)などで補っている。 また、米国では、引退してから契約社員として働くケースは極めて少ない。 引退後は、仕事から完全に開放され、プライベートな生活となる。 子育てや介護の時間 報告書は、労働年数が長くなり、柔軟なワークスタイルを取り入れることを提言している。 これは「Work More Years with More Flexibility」と呼ばれ、今のスタイルでプラス20年働くのではなく、個人のライフプランに合わせた働き方をデザインする。 例えば、子育てで時間が必要な社員は、この期間は働く時間を減らす。また、両親の介護で時間を要する社員は、同様に、労働時間を短縮したワークスタイルを選択する。 柔軟なワークスタイル 米国社員は平均で、週40時間労働(一日8時間労働)をこなす。 この時間の中で、子育てや介護の時間を捻出し、仕事とプライベートの両立で苦しんでいる。 労働年数が長くなると、一律に週40時間労働を適用するのではなく、プライベートな時間が必要な時は、労働時間数を半減するなど、柔軟な仕組みを提言している。 また、勤務形態も在宅勤務など、フレキシブルなスタイルの導入を求めている。 教育システムの改革 人生100年時代には、教育システムを変える必要があると提言している。 生まれてから幼稚園までの期間は、認知力や感性の教育が重要で、これらのスキルを獲得することで、健康な人生を送ることができる。 また、学校教育についていけず落第した生徒については、再度教育を受ける仕組みが必要としている。 更に、大学までの一律な教育の他に、社会に出て人生のそれぞれの節目で、必要な教育を受ける仕組みも必要としている。 企業はどう反応するか スタンフォード大学の提言に対し、雇用側の企業はコメントを発表していないが、これを契機に議論が始まる。 企業としては、柔軟な勤務体系を取り入れると、社員にかかるコストが上昇し、人件費の負担が増える。 一方、社員がフレキシブルに勤務できると、生産性が高まるメリットが期待される。 これらプラス面とマイナス面を考慮し、勤務体系の見直しを進めることになる。 長寿社会に向けた議論 長寿社会に備えて社会制度を見直すことは、政府や企業だけの責任ではなく、医療機関や保険会社など、関係者が多岐にわたる。
国を挙げた改革プロジェクトとなる。報告書は、今の新生児への投資を通し、長寿の恩恵を受けることができる社会の構築が必要としている。 日本は既に長寿社会であるが、米国を含め、世界各国で健康寿命が延びている。 2022年は、長寿社会に向けた制度設計についての議論が始まる年となる。 米国企業は、人間に代わりAIが応募者を審査する、「AI人事」の導入を進めている。 これに対し、ニューヨーク州は、AI人事を規制する法令を可決した。これはAIが偏った判定をすることを防ぐもので、企業はアルゴリズムの妥当性を証明することが求められる。 企業はAIで採用プロセスを自動化しているが、これからはAI人事の運用には制限が課されることになる。 ニューヨーク市の法令米国では、多くの企業が人事採用プロセスにAIを導入し、アルゴリズムが応募者を評価して、採用の可否を判定する。ニューヨーク市議会は、全米に先駆けて、AIを使った人事採用を規制する法令を可決した。 これによると、AIを人事採用プロセスで使う場合は、企業はアルゴリズムが公平に判断を下すことを証明することが求められる。 第三者による監査具体的には、第三者がアルゴリズムの公平性を監査することが義務付けられた。 企業は、アルゴリズムが、性別や人種や出身地に関わらず、公平に評価できることを証明する必要がある。更に、人事面接でAIを使う場合は、その旨を応募者に明らかにすることも求めている。 アルゴリズムの監査アルゴリズムを監査するというコンセプトは、企業の決算を監査する考え方に似ている。 上場企業は、決算報告書を財務当局に提出するが、その際、第三者により決算書の内容が正しいことを証明する。 アルゴリズムも同様に、人事採用のプロセスで、AIがバイアス無しに正しく判定を下すことを証明することが求められる。 AI人事のバイアス問題ニューヨーク市がAI人事を規制する背景には、アルゴリズムが特定グループに有利に働き、判定結果がバイアスしているケースが発生しているため。 大企業の多くは、履歴書のスクリーニングや面接でAIを使っている。AIが人間に代わり、履歴書を読み、面接の応対を解析し、採用の可否を判断する。 企業としては、多数の応募者を効率的に判定できるため、AIが必須のツールとなっている。同時に、アルゴリズムの公正性について問題が指摘されていることも事実。 AI人事の判定結果を検証実際に、AI人事の判定結果を検証するプロジェクト「Objective or Biased」がその問題を明らかにした。 AIは様々な手法で面接者を評価し、採用するかどうかを判定する。その一つが、「AI面接」で、アルゴリズムはビデオで撮影された応募者の表情を分析し、採否を判定する。 アルゴリズムは、声や使う言葉や手ぶりや表情を分析し、応募者の個性や特性を掴み、募集しているポジションに適しているかどうかを判定する。 AI面接の手法プロジェクトはAI面接システム「retorio」の判定精度を検証し、結果が公平かバイアスしているかを評価した。 retorioはドイツ・ミュンヘンに拠点を置く企業で、ビデオ映像をAIで解析し、応募者の特性を5つの指標で評価する。 これらは、「ビッグファイブ」 (Big Five Personality Traits)と呼ばれ、オープン性(Openness)、誠実性(Conscientiousness)、外向性(Extraversion)、合意性(Agreeableness)、神経症(Neuroticism)で構成される。 AI面接の信頼性に疑問アリAIがビデオ映像からこれらビッグファイブの特性を評価し、採用の可否を判定する。 プロジェクトの検証によると、AIの判定精度は、人物以外のオブジェクトに依存し、必ずしも正しく判定できていないと指摘する。 例えば、メガネをかけて面接すると、AIの評価が低下する。また、応募者の背景により評価が変わる(下の写真)。 応募者の背後に本棚があると、AIの判定精度が大きく向上する(黄色のグラフ)。 これらの事例から、AI面接でアルゴリズムは本人だけでなく、メガネや本棚など、それ以外のオブジェクトを評価しており、判定精度に疑問が残るとしている。 アメリカ連邦議会アメリカ連邦議会もAIによる自動化プロセスを規制する法案を審議している。 これは「Algorithmic Accountability Act」と呼ばれ、AIが自動で意思決定をするシステムをハイリスクと認識し、企業にAIの安全性を担保することを求める。 具体的には、アルゴリズムの判定精度が高く、バイアスしていないことを保証することが課せられる。この法案は審議中で、可決するかどうかは見通せないが、連邦政府もAIの規制に動き始めた。 AI面接システムの販売停止AI面接については、その判定精度を疑問視する意見が多く、米国のAI企業HireVueは、AI面接のシステムの販売を停止した。
HireVueはビデオ面接の映像をAIで解析し、採用の可否を判定するシステムであるが、AIが本当に人間のように公正に判定できるのか、議論が続いていた。 ニューヨーク市を発端に、米国でAI人事への規制が広がる勢いとなってきた。 自動運転ロボット「Nuro」がシリコンバレーで営業運転を開始した。 Nuroはトヨタ・プリウスをベースとした自動運転車で、注文した商品を玄関先まで配送する。今はセーフティドライバーが搭乗しているが、将来は、無人車両が商品を配送する。 コロナの感染拡大で、Eコマースによる宅配事業が急拡大しており、自動運転ロボットへの期待が高まっている。 セブンイレブンと提携Nuroはコンビニ「セブンイレブン」と提携し、カリフォルニア州マウンテンビュー市で宅配サービスを開始した。 オンラインで購入した商品を、トヨタ・プリウスをベースとした自動運転ロボットが、消費者宅まで配送する(上の写真)。Nuroはドライバーの介在なく自動で走行する。 Nuroは、専用車両「R2」を開発しており(上の写真左端の車両)、次のステップは、ロボットが無人で商品を宅配する。 実際に使ってみると早速、Nuroによる配送を試してみたが、全てのプロセスがスムーズに動いた。 セブンイレブンで商品を購入するために、専用アプリ「7NOW」を使った(下の写真)。 ショッピング画面(左側)で宅配を選択し、希望する商品を購入した(中央)。 支払い処理が終わると、店舗側で商品をNuroに積み込む作業が始まる。その後、Nuroがセブンイレブンを出発し、目的地に向かった。Nuroの位置はマップに表示され、運行状態を確認できた(右側)。 Nuroが無事に到着Nuroは、自宅前に停止し(下の写真)、配送スタッフが購入した商品を玄関先まで届けてくれた。 Nuroには、セーフティドライバーが搭乗しており、クルマを安全に運行する。 スタッフに話を聞いてみると、Nuroは殆どの区間を自動で走行するが、時々、セーフティドライバーがステアリングを操作するとのこと。(実際、Nuroは玄関前を通り越し、隣の家で停車したため、セーフティドライバーがマニュアル操作で、Uターンして自宅前にクルマを移動した。) カリフォルニア州の認可Nuroは、営業運転を開始するにあたり、カリフォルニア州の陸運局 (Department of Motor Vehicles)から、公道を無人走行するための認可を受けた。 走行できる地域が指定されており、Nuroはサンタクララ群とサンマテオ群で営業運転を展開できる。また、走行できる道路も規定され、定められたルートを安全に走行する。 事実、営業運転は、サンタクララ群のマウンテンビュー市で開始された。(下の写真、試験走行中のNuro) 次のステップNuroは自動運転ロボット「R2」を開発している(下の写真)。 R2はレベル5の自動運転車で、ロボットが無人で、商品を消費者宅に配送する。 消費者は、ウェブサイトで商品を購入すると、R2がこれを配送する。R2は玄関先に停車し、消費者は貨物ベイのハッチを開けて商品を取り出す仕組みとなる。現在は、食料品の配送が中心であるが、将来は、医薬品の配送も計画されている。 ロボット宅配需要が高騰新型コロナの変異株「Omicron」の感染が広がり、パンデミックの終息が見通せなくなり、宅配サービスの需要が急騰している。
レストランの出前サービスの他に、食料品の配送ビジネスが拡大している。 小売店舗側はNuroと提携し、ロボットによる宅配サービスを進めている。 セブンイレブンの他に、スーパーマーケット「Kroger」やドラッグストア「CVS」がNuroによる宅配サービスを展開している。これらの需要に応えるため、Nuroは技術開発を加速している。 Microsoftはメタバースの技術開発を進め、3D仮想空間におけるビデオ会議システム「Mesh for Teams」を発表した。 このシステムはメタバースに構築されるコラボレーション基盤で、アバターを介してコミュニケーションする(下の写真)。Microsoftは「Mesh」という名称でメタバース技術を開発しており、これをビデオ会議「Teams」に適用した。 Microsoftが考えるメタバースMicrosoftは2021年3月、メタバースを構成する技術として「Mesh」を発表した。 Microsoftは、メタバースをインターネットの新しいモデルと捉えている。メタバースは仮想空間で、ここに人々が集い、交流する場となる。 また、メタバースに、人や物のデジタルツインが生成され、これらを介して、現実空間と仮想空間が連結される。 Microsoftは現実空間と仮想空間の融合をMR(Mixed Reality)と呼び、Meshがこの技術を支えている。更に、MicrosoftはMRヘッドセットとして「HoloLens」を開発し、企業向けに提供している。 Mesh for Teamsとはメタバース上に展開するビデオ会議システムは「Mesh for Teams」と呼ばれ、コラボレーションツール「Teams」をMR空間「Mesh」で運用する構成となる。 Teamsは在宅勤務におけるコラボレーションツールとして、幅広く利用されている。 Mesh for Teamsは、その新機能で、自分のアバターを介してテレビ会議に参加する(下の写真、右側)。 また、企業はMesh for Teamsを使って、会議室やロビーなど、仮想空間を生成することができる。ここに3D仮想オフィスが生成され、社員はアバターを介してここでデジタルに勤務する。 Accentureの仮想オフィスAccentureは既に、メタバース上にオフィス空間を生成し、社員のコラボレーションの場として活用している。 仮想のキャンパスは「Accenture Nth Floor」と呼ばれ、ここに社員が集い、オフィス勤務をする(下の写真、イメージ)。 社員は、オフィスでコーヒーを飲みながら会話を交わすこともできる。 会議室ではプレゼンテーションを行い、また、パーティーを開催することもできる。 仮想キャンパスは、テレビ会議とは異なり、社員同士が出会い交流する場となる。物理オフィスで雑談するなかで、アイディアが生まれるように、メタバースは社員が出合い言葉を交わす場となる。 メタバース・アプリケーションMicrosoft はMeshとHoloLens を使ったメタバース・アプリケーションの開発を進めている。 メタバース・アプリケーションは、場所を超えて共同作業をする空間を構築する。例えば、オフィス内に3D 仮想スペースを構築し、共同作業を進めることができる(下の写真)。 複数の社員がHoloLens 2を着装し、会議室やオフィスに集合し、そこで実物を見ながら製品開発を進めることが可能となる。このアプリケーションはMeshで生成され、HoloLens 2からアクセスする。 メタバースへのアクセス技術Microsoft は、メタバースへのアクセス技術としてMR グラス「HoloLens」を開発した。 現在は、第二世代の製品「HoloLens 2」を出荷しており、これを着装し、現実空間に構築された仮想オブジェクトを操作する(下の写真)。 企業向けのデバイスで、メタバース・アプリケーションと組み合わせて利用する。Microsoft はVR(仮想現実) とAR(拡張現実) を統合した技術をMR(複合現実)と呼び、メタバースにアクセスする基礎技術と位置付けている。 Mesh for Teamsを開発した理由Microsoftは、ポストコロナのワークスタイルはハイブリッドとなり、遠隔勤務が重要な役割を担うと分析している。 遠隔勤務では、管理職が考えるより、仕事を効率的に進めることができるとしている。 一方、社員は、遠隔勤務では、会社の同僚と会えないことが最大の課題だと指摘する。オフィス勤務では、同僚と立ち話ができ、人間関係が深まる。 また、会議では、同僚の素振りから、その場の空気を読むことができた。遠隔勤務では、これら人間関係のウェットな部分が欠落し、社員同士が疎遠になる。 Mesh for Teamsはこれらの問題点を補完するために開発された。 社員はデジタルツインであるアバターを生成し、これらを介して、表情や感情を表し、他の社員と交流する(下の写真)。 メタバースのロードマップMeta(Facebook)はメタバースにソーシャルネットを構築する構想を描いているが、Microsoftはメタバースで企業向けのソリューションを提供する戦略を取る。
その最初のステップがコラボレーションで、社員は3D仮想空間で共同作業を実行する。航空機のエンジンの設計を遠隔地と社員と共同で進めるソリューションを提供している(下の写真)。 Microsoftの強みはAIやクラウドで、Mesh for Teamsでメタバース開発レースに参戦した。 先週、NVIDIAは開発者会議「NVIDIA GTC 2021」で、地球温暖化対策に寄与する新技術を発表した。 これは、地球をメタバースで構築し、ここで気候モデルをシミュレーションし、温暖化対策に役立てるという構想である。 気候モデルは巨大で、新たにスパコンを開発して、これを実行する。しかし、高精度なモデルを実行するにはスパコンでも性能が十分でなく、AIで物理法則を解く技法を導入した。スパコンとAIを組み合わせ、数十年先の地球の気候を正確に予想する。 地球温暖化問題イギリス・グラスゴーで開催されたCOP26は、世界の平均気温の上昇を、産業革命前に比べ、1.5度に抑える努力をすることを再確認した。 同時に、世界の平均気温は1.1度上昇しており、その影響が各地で広がっていることに警鐘を鳴らした。 今年は、記録的な熱波や豪雨など、気象災害が世界各地で発生している。カリフォルニア州は記録的な干ばつで、大規模な森林火災が続き、気候変動がこれらの災害を加速している(下の写真)。 メタバースでシミュレーションGTC 2021で、CEOであるJensen Huangが、NVIDIAのプロセッサとAIを気候モデルに適用し、地球温暖化対策に寄与する手法を発表した。 これはOmniverseで地球のデジタルツインを生成し、このモデルで地球の気候変動を解析する手法となる。 具体的には、地球の気候モデル(Climate Model)を生成し、これをスパコンとAIでシミュレーションするアプローチを取る(下の写真、イメージ)。 NVIDIAはメタバースの開発環境をOmniverseとして提供している。 気候モデルを生成地球規模の気候モデルを生成することで、世界各地の気候を数十年先のレンジで予測する。 将来の気候を正確に予想することで、危険性を正確に可視化でき、温暖化対策やインフラ整備のための基礎データとなる。 天気予報は短期間の大気の物理現象を予測するが、気候モデルは数十年単位の気候シミュレーションで、物理学、化学、生物学などが関与し、巨大なモデルとなる。 豪雨や干ばつを予測気候モデルを高精度で解析するには、地球規模の水の循環をシミュレーションする必要がある。 これは「Stratocumulus Resolving」と呼ばれ、海水や地表面の水が、大気や雲を通して移動するモデルとなる(下の写真)。この循環が変わると、豪雨や干ばつによる被害が甚大となり、社会生活に大きな影響を及ぼす。 専用スパコンと最新のAI技法しかし、このモデルをシミュレーションするためには、地表面をメートル単位の精度で計算する必要がある。 現行の気候モデルのメッシュはキロメートルで、これをメートルにすると、演算量は1000億倍となり、世界最速のスパコンを使っても処理できない。このため、NVIDIAは気候モデル専用のスパコン「Earth-2」を開発するとともに、物理モデルをAIで解く技術の研究を始めた。下の写真は気候モデルの計算量の増加を示している。 水循環モデル(Stratocumulus Resolving)をスパコンだけで計算するには、2060年まで待つ必要がある。 物理法則をAIで解くこのため、AIで物理法則を解く技法の研究が進んでいる。 気候モデルのシミュレーションとは、物理法則に沿った挙動を可視化することを意味する。 自然界の動きは物理法則に従い、古典力学、流体力学、電磁気学、量子力学などがその代表となる。気候モデルでは流体力学が重要な役割を果たし、流体の動きはナビエ–ストークス方程式(Navier-Stokes Equations)などで記述される。 ニューラルネットワークでこの方程式を解く技法の開発が進んでいる。(下の写真、AIでハリケーンなどの異常気象を予想したケース。) 物理法則をAIで解くフレームワークNVIDIAは物理法則をニューラルネットワークで解くためのフレームワーク「Modulus」を提供している(下の写真)。 Modulusを気候モデルに適用することで、AIでナビエ–ストークス方程式の解法を求めることができる。従来方式に比べ処理時間が大幅に短縮され、AIの新しい技法として注目されている。 このプロセスを専用のスパコン「Earth-2」で実行することで、高精度な気候モデルのシミュレーションが実現する。 気候変動に備える気候モデルのシミュレーションで、数十年先の気候を正確に予測する。
世界の主要都市は、数十年先に起こる気候条件に応じて、インフラ整備を進める。 また、温暖化防止対策を策定する際に、どの方式が一番有効であるかを検証できる。 地球のデジタルツインは、計測されるデータでアップデートされ、異常気象を高精度で予測し、地球温暖化対策の重要なツールとなる。 今週、NVIDIAは開発者会議「NVIDIA GTC 2021」で、メタバースの最新技術を公表した。 NVIDIAはメタバースの開発環境を「Omniverse」という名称で製品化しており、企業はこのプラットフォームで3D仮想空間を生成し、ソリューションを構築する。 基調講演で、人間のデジタルツインであるアバターの新技術が公開された。 高度な言語モデルを組み込んだAIアバターが人間と会話するデモが実演された。(下の写真、CEOであるJensen Huangのフィギュア「Toy Jensen」が身振りを交えて人間と対話する。) OmniverseとはNVIDIAは、3D仮想空間を開発するプラットフォームを「Omniverse」として提供している。 企業は、Omniverseで3D仮想空間を生成し、ここで様々なシミュレーションを実行し、製造プロセスを最適化する。 Omniverseは、既に多くの企業で導入されている。 自動車メーカーBMWは、Omniverseで製造工場のデジタルツインを生成し、生産工程を最適化している。(下の写真、BMWは製造施設の高精度なコピーを3D仮想空間に生成し、ここで生産工程をシミュレーションし、効率などを検証した。) 人間のデジタルツイン開発者会議では、Omniverseで人間のデジタルツインを生成する技法と応用事例が紹介された。 この技法は「Omniverse Avatar」と呼ばれ、高度なAIを統合したデジタルヒューマンとなる。 AIアバターは視覚を備えており、相手を見ながら人間と会話する。また、相手の話し言葉を理解し、AIアシスタントとして人間に助言する。 AIアバターは3Dフィギュアとして生成され、レイトレーシング(Ray Tracing)を使って作画され、本物の人形が動いているように見える。 顧客サービスアバター:Project TokkioAIアバターが人間に代わり顧客に応対する。 このプロジェクトは「Project Tokkio」と呼ばれ、AIアバターは顧客をビジュアルに認識し、対話を通して顧客をサポートする。その一つが上述の「Toy Jensen」で、3Dフィギュア形状のAIアバターが、身振りや手ぶりを交えて、顧客と対話する。 また、AIアバターが、レストランのキオスクで店員に代わり、顧客の注文を取る。 AIアバターが顧客と会話しながら、料理の内容を説明し、好みを聞き、最適なメニューを推奨する(下の写真)。 AIアバターは高度な会話能力を備えているが、この背後では世界最大規模の言語モデル「Megatron 530B」が稼働している。 自動運転車のアシスタント:Drive Conciergeクルマが自動運転車となると、AIアバター「Drive Concierge」が運転のアシスタントとなる。 AIアバターは、クルマのディスプレイに表示され、ドライバーとのインターフェイスとなる(下の写真)。 AIアバターがドライバーとの対話を通して、目的地と到着時間を理解し、時間通りに到着するために、最適な運転モードを選択する。 ビデオ会議のアシスタント:Project MaxineNVIDIAは、コラボレーション空間を生成するための開発環境「Project Maxine」を提供している。 企業はこのプラットフォームを使って、遠隔勤務のためのビデオ会議空間(仮想オフィスなど)を構築する。開発者会議では、これを拡張した機能が紹介された。 AIアバターをビデオ会議に組み込むもので、発言者の言葉をリアルタイムに翻訳する。(下の写真、英語で発言した内容がフランス語に翻訳される。フランス語で発声するだけでなく、口の動きもフランス語となる。) また、発言内容はテキストに変換して表示される。 AIアバターを支える技術AIアバターであるOmniverse Avatarは、多種類のAI技法を組み合わせて生成される。 主なAI技法は次の通り:
メタバースの標準プラットフォームNVIDIAは、メタバース開発のためのプラットフォーム「Omniverse」を提供しており、企業はこの環境で3D仮想空間を生成する。
メタバース開発のために、多くのエンジニアやクリエーターが異なるツールを使ってアプリケーションを開発する。 Omniverseは、異なるツールを連携し、共同開発のプラットフォームとなる(下のグラフィックス)。 いま、世界各国でメタバースの開発が進んでいるが、これらは独自手法で構築され、固有のメタバースが数多く生成されている。 NVIDIAは、Omniverseをオープンなメタバース開発環境と位置付け、業界標準となるプラットフォームを目指している。 Facebookは開発者会議Connect 2021で、メタバース(Metaverse)構想を明らかにした。 メタバースとはインターネットに構築される3D空間で、次世代ソーシャルネットワークはここに構築される。 メタバースは現実空間と仮想空間が融合したもので、ここで人々が交流しビジネスが営まれる。(下の写真、メタバースに構築されたオフィス) メタバースを構成する技術メタバースを構築する基礎技術はAR(拡張現実)とVR(仮想現実)で、これらを融合しMR(複合現実)を生成する。 これらがメタバース研究所「Facebook Reality Labs」で開発されている。 現在のAR・VRを飛躍的に進化させ、リアルとバーチャルを融合したMR空間を生成する。 Metaはメタバースをモバイルの次のプラットフォームと位置付け、AppleやGoogleに依存しないインターネットを生成する。(下の写真、現実空間に仮想オブジェクトを融合したMR空間。) メタバースを生み出す技術:Presence PlatformMetaが開発しているメタバースは、リアル社会とバーチャル社会を滑らかに融合するもので、これを生み出す技術は「Presence Platform」と呼ばれる。 このプラットフォームは、コンピュータビジョンとAIが核となり、仮想オブジェクトを現実空間に組み込むためのモジュールから構成される。具体的には、MR(Mixed Reality)、オブジェクトのインタラクション、ボイスのインタラクションを生成する機能を提供する。MRとは、上述の通り、複合現実で、現実空間と仮想空間を融合し、メタバースの中心機能となる。 Presence Platformは三つのSDK(Software Development Kit)から構成される:
MR空間を生成する技術:Insight SDK Insight SDKはメタバースの中心技術で、高品質なMR空間を生成する。Insight SDKは「Passthrough」と「Spatial Anchors」の二つの機能から成る。 Passthrough機能 PassthroughはVRヘッドセットを介してMR空間を生成する技術で、現実空間に仮想オブジェクトを描写する。 下の写真はOculus Quest 2を介してピアノのレッスンを受けている様子。 ピアノの鍵盤に円形の仮想オブジェクトを表示し、これを指で叩くと音楽を演奏できる。Oculus Quest 2はカメラを搭載しており、前方のイメージを白黒で見ることができる。 Oculus Quest 2はVRだけでなく、MRグラスとしての機能がある。 Spatial Anchors機能Spatial Anchorsはハンドセットで現実空間をマッピングする機能。 下の写真はOculusのハンドセットを置かれた家具に沿って動かし、部屋の中をマッピングしている様子。 システムは現実空間の構造を理解して、それに応じて仮想オブジェクトを表示するために使われる。 Scene Understanding機能Scene Understandingはユーザ空間を理解する機能で、空間の位置関係やその意味などを理解する。 この中のScene Modelを使って部屋の中にMR空間を生成する。下の写真は部屋の空間に仮想オブジェクト(暖炉や窓の外の景色)を挿入しMR空間を生成したもの。 このようにPassthrough、Spatial Anchors、Scene Understandingを使って、複雑で、かつ、物理空間の意味を理解したメタバースを開発できる。 手の動きを表現する技術:Interaction SDKInteraction SDKは手やハンドセットの動きを仮想空間の中で表現するために使われる。 手で仮想オブジェクトを掴んだり、触ったり、ポイントするなどの動作を司る。 下の写真は、手で仮想のコーヒーマグの取ってを掴んでいる様子。 Interaction SDKは、コンピュータビジョン使い、AIが手の動きをトラックし、オブジェクトとのインタラクションを把握する。 話し言葉を理解する技術:Voice SDKVoice SDKは自然言語解析の機能で、話し言葉により、ハンズフリーのオペレーションができる。 これをゲームに適用すると、音声でプレーするゲームを開発できる。 Voice SDKは、音声でのナビゲーションの他に、音声での検索や、音声でのQ&A機能を提供する。 下の写真は、仮想のキャラクター「Oppy」の名前を呼ぶと、言葉の意味を理解して近づいてくる。 次世代VRヘッドセット:Project CambriaMetaは次世代のVRヘッドセットを開発している。このプロジェクトは「Project Cambria」と呼ばれ、ハイエンドのVRヘッドセットとなる。 Project Cambriaは、Social Presence機能やカラーのPassthrough機能を備えている。 現在、Metaは消費者向けにVRヘッドセットOculus Quest 2を販売しているが、Project Cambriaはこの後継モデルではなく、ハイエンドの製品ラインとなる。 モバイル向けAR:Spark AR「Spark AR」はモバイル向けのAR開発環境で、既に多くのコンテンツが開発されている。 これはMobile ARと呼ばれ、スマホのアプリに組み込んで利用する。例えば、顔に特殊効果を挿入する際にSpark ARが使われる。 下の写真は、Spark ARで顔に特殊メイクを施し、妖怪に変身する事例。Metaは、このSpark ARを拡張し、メタバース向けに高度なARを開発している。 ARグラス:Project AriaMetaはARグラス「Project Aria」を開発している(下の写真右側)。 これは、グラスにカメラとディスプレイを搭載した構造で、目の前の現実空間に仮想オブジェクトをインポーズする。 ARグラスはDigital Assistantとなり、AIが周囲のオブジェクトの種別や意味を理解する(下の写真左側、ソファーやテーブルを認識する)。 更に、AIは利用者の意図を把握して、次の行動をアシストする。利用者が電灯に視線を向けると、スイッチががオンになるなどの機能がある。 ARグラスへの入力:ElectromyographyARグラスにデータを入力する方法が課題になるが、MetaはElectromyography(筋電図)という技法を開発している。 これは筋肉で発生する微弱な電場をAIで解析することで、その意図を推定するもの。 手首にデバイスを装着しElectromyographyを計測する。 指でアルファベットを書くと、このデバイスがテキストに変換する(下の写真、テキストメッセージを入力している様子)。 コンセプトの段階Metaはメタバースの概要を始めて公開したが、これらはまだ製品ではなく、コンセプトの段階である。
今回の発表はProof of Conceptを示し、メタバースが完成した時の製品イメージを提示することを目的とした。 これによると、AR・VR・MR技術が大きく進化し、メタバースは現実空間と仮想空間が滑らかに融合した社会であることが分かった。 一方、メタバースはより深い個人データを使うことも分かり、個人情報の保護がより厳しく求められる。 Facebookは、開発者会議「Connect 2021」で、ソーシャルメディア企業からメタバース(Metaverse)企業になることを発表した。 CEOのMark Zuckerbergがメタバース空間で明らかにしたもので(下の写真)、これに伴い、社名も「Facebook」から「Meta」に変更する。 Facebookは創設以来最大の危機に直面しており、社名を変えることで、新生企業として再出発する。 一方、Metaが開発しているメタバースは、従来の技法から大きく進化したもので、スマホの次のプラットフォームになる可能性を秘めている。 メタバースとはメタバースとは、インターネットに構築された3D仮想社会で、ここに人々が集い交流する。 従来のVR空間とは異なり、メタバースでは利用者が仮想社会と連動し、そこに存在している感覚「Social Presence」を覚える。次世代のソーシャルネットワークはメタバースに構築される。 Facebookは、メタバースをモバイル・インターネットの次のプラットフォームとして位置付け、技術的に大きな飛躍となる。但し、メタバースは今すぐに使えるサービスではなく、完成までに時間を要すことも明らかにした。 Facebookはそのビジョンを示したもので、これに向かって技術開発が進んでいる。 (下の写真、メタバースの事例、無重力空間で友人同士がアバターを介して交流している様子。) 家庭向けのメタバースZuckerbergは基調講演で、メタバースの様々な利用方法を紹介した。 その一つが家庭向けのメタバースで、「Horizon Home」と呼ばれる。 これはVRヘッドセット「Oculus」を着装して利用するサービスで、複数の友人がメタバースに集い、それぞれのアバターを介して交流する(下の写真)。 お互いに会話するだけでなく、グループでゲームをプレーするなど、アバター同士がインタラクションできることに特徴がある。 企業向けのメタバース今回の発表に先立ち、Facebookは企業向けのメタバースを発表している。 これは、「Horizon Workrooms」と呼ばれ、遠隔勤務向けのコラボレーションシステムとなる。 社員はアバターを介してビデオ会議に出席し、他の社員とインタラクションしながら、会議を進める(下の写真)。ホワイトボードに説明資料を表示するなど、リアルのオフィスを仮想空間に構築する。 メタバースでゲームをプレーゲームはメタバースの重要なアプリケーションで、既に数多くのコンテンツが開発されている。 ARグラスを着装すると、海外に住む友人とチェスを対戦することができる(下の写真)。 また、VRヘッドセットを着装すると、没入型のゲームを体験できる。OculusはVRゲームを数多く開発しおり、ヒット商品は「Beat Saber」で、飛んでくる物体を刀で切り落とす。 メタバースでフィットネス近年は、ジムでエクササイズをする代わりに、自宅でVRヘッドセットを着装してトレーニングする人が増えた。 フィットネスバイクは、仮想のスタジオで、インストラクターの指示に従ってペダルを漕ぐ(下の写真)。また、「Supernatural Boxing」シリーズは、VRボクシングを通したエクササイズで、巨大なモンスターと対戦する。 仮想空間で教育メタバースは教育プラットフォームとして使われる。ARグラスを着装して土星を見ると、目の前にその構造が描写される。土星の環の中に入ると、無数の氷の塊で構成されていることが分かる。 また、VRヘッドセットを着装すると、古代ローマの都市に降り立つことができる(下の写真)。市場で売られている魚や果物を見て、街の賑わいを感じる。また、建造物のアーキテクチャや建設方法を学ぶことができる。 社名の変更Zuckerbergは、社名を「Facebook」から「Meta」に変更したことを明らかにし、その理由をメタバース企業に転身するためと説明した。 Metaはギリシャ語で「Beyond」という意味で、ソーシャルネット―ワークの次の章が始まることを示している。既存サービスの名称はそのままで、Metaの配下でFacebook、Instagram、WhatsAppがビジネスユニットとして事業を継続する。(下の写真、本社の前のパネルは新しいロゴに置き換わっている。) Facebook Papersいま、Facebookは創業以来最大の危機に直面している。Facebookの元社員が、社内資料を公開し、会社は利用者の安全を犠牲に利益を上げていると告発した。
持ち出された大量の社内資料は「Facebook Papers」と呼ばれ、Facebookのアルゴリズムやビジネス慣行が記載されている。 Zuckerbergはこの危機を乗り越えるため、社名をMetaとし、新生企業として出直しを図り、社会からの批判を避ける思惑もある。 |